サカズキ長編 | ナノ


サカズキのことが大嫌い、あるいはそれに匹敵するような実力者を目障りに思っている、というカルデラへの認識が改められたのは、今期の新兵が基礎訓練を終えて迎えた初陣においての話だ。サカズキと喧嘩するなよ、指揮官の言うことを聞けよ、と言い聞かせられながら教官に送り出されたカルデラは、サカズキとは遠い位置の部隊に配属され、一番危険な最前線に立つこととなった。これは万が一交戦中にサカズキと鉢合わせたとして、喧嘩を売るような余裕を無くすように、という指揮官の配慮だ。あるいはこの機に問題児を殺してしまおうかという陰謀もあったのかもしれないが、今となっては知るよしもない。新兵達の初陣は、あっという間に終わってしまった。サカズキとボルサリーノ、そしてカルデラの活躍による、一方的な殲滅戦として。

指揮官や先輩兵士、または他の同期が思うように動けなかったのはその三人の実力が突出していたから、というわけではない。主にカルデラが悪いのだ。「あいつ、頭おかしい」と戦慄きながら呟いたのは誰だったろうか。口には出さずとも、誰もが思っていたはずだ。海軍も海賊も、その場にいる人間全てが、カルデラの正気を疑った。

げらげらげらげら、カルデラはいつもサカズキに相対している時のように笑いながら、指揮官の指示も聞かずに敵地のど真ん中に飛び出していった。こわい、たすけて、しんじゃう、そんな弱気な言葉を吐きながら、それでも笑いは止まず、足も止めず、気が違ってしまった男は丸腰で飛び出ていったのだ。げらげらげらげら、笑いながら。
明らかに様子のおかしい人間が目の前に表れて、海賊も一瞬戸惑うような仕草を見せた。するとその途端、カルデラは目の前にいた海賊の喉笛をひきちぎったのだ。もちろんげらげら笑いながら。
得体のしれない化け物を排除しようと、海賊達が動き出すと一層カルデラの高笑いは大きくなった。正にサカズキに喧嘩を売っている時と同じような、笑い方だ。カルデラを知る同期や指揮官は、急にカルデラが理解出来なくなってしまった。サカズキを笑っていた理由は、サカズキが嫌いだから馬鹿にして楽しんでいたのだと、そう思っていた。今の笑いも同じ理由だと考えるなら、海賊が嫌いなのだろう。だがしかし、それならば別に、丸腰で飛び出して行く必要がどこにあるというのか。げらげらげらげら、笑う声の合間に、悲鳴のような言葉も聞こえてくる。恐怖で頭が狂ってしまったのだと、そう考えた方が納得できた。

悪魔にでもとりつかれたかのような尋常でない様相に、逃げ出す海賊もいれば士気を削がれた海兵もいて、結局その場をまともに動けたのはカルデラ以外では幹部格の海賊、そしてカルデラの笑いに慣れているサカズキと滅多なことでは動じないボルサリーノだけだ。
腰を抜かして一部始終を眺めていた同期の一人は、戦いを終えて笑い疲れたらしいカルデラがサカズキを見てもいつものように喧嘩を売らなかった姿を見て、ようやくカルデラの正体を悟った。

「あいつはサカズキが嫌いなんじゃない、ただ頭がおかしいだけなんだ」

果たしてそれは、真実に一番近い正解である。


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