サカズキの制服を切り刻んだのは、カルデラではない。その事実が発覚した時、全員が真実を疑った。
壁にいくつもの大穴が空いた食堂で、事情を聞いた教官にサカズキが話した経緯とカルデラの行動は食い違っていたのだ。サカズキの制服が凶行に遭ったのは、朝に訓練が始まって、昼前に訓練が終わるまでの間。既に問題児扱いされているカルデラは最近、サカズキを挑発しないよう隔離されて訓練を受けている。反骨精神が旺盛なのか教官にすら挑発と反抗を繰り返しては怒られ、罰として死ぬほど走らされていた彼が昼休みに入ったのは随分と遅い時間で、シャワーで汗を流す暇もなかったものだから一足先に食事をしていたのだ。 朝から教官に付きっきりで、宿舎やシャワー室に寄る間もないのはカルデラを見ていた教官がよくわかっている。食堂を半壊にした事情を聞く前から「どうせお前が悪いんだろう」と頭に拳骨を食らったカルデラは、ふてくされた表情でアリバイを証明した。
「そもそもおれがやるとしたらサカズキの目の前でやるし」 「おいカルデラ、サカズキに謝れ」 「なんでェ!!先生ひどくない!?謝るのサカズキじゃない!?」 「普段の行いを省みてから言え」 「ですよねー」
何がおかしいのか、げらげら笑い出したカルデラはまた教官に頭を殴られている。確かに間違われても仕方がない言動をしているのはカルデラだが、間違えたのはサカズキだ。「すまんかった」と小さく謝罪を口にすると、目を丸くしたカルデラはすぐににんまりと笑う。
「はァ?なんて?きっこえなーい」 「…、死ねェ!!!」 「んはははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」 「やめねェか馬鹿野郎ども!」
サカズキの制服を切り刻んだのがカルデラではないとしたなら、誰がサカズキにあんな卑劣な嫌がらせをしたというのか。新たな疑問が生まれたものの、周囲はサカズキとカルデラの一悶着に巻き込まれないよう逃げるのに精一杯で、そんなことは瑣末な問題に成り下がってしまった。
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