サカズキ長編 | ナノ


カルデラはサカズキを嫌っている。それはもはや周知の事実だ。
海軍入隊時から、サカズキやボルサリーノとは違った意味で異質な男ではあったが、最近になってサカズキによく絡んでいることでその存在が浮き彫りになってきた。
サカズキは嫌われている。それも周知の事実ではあったが、それは彼の過激な性格と、人を人とも思わない冷徹な態度のせいだ。天才の気持ちは天才にしかわからないというように、同じく突出したボルサリーノとは比較的気が合うようだが、それでも仲がいいというには足りないドライな関係だ。
サカズキは孤立していて、しかも全く気にしていない。その態度が癇に障るのだと、嫌う人間は少なくなかったが、彼の実力と過激な性格にわざわざ喧嘩を売る人間はいなかった。臆病だと言われてしまえばそれまでだ。しかし命を掛けてまでサカズキに対立するほど譲れないものを持った人間も、そこまで彼を憎んでいる人間も、同期の中にはいなかったのである。

しかしそれは、カルデラという人間を除いた時の話だ。
カルデラは周りの同期とは違う。彼だけは、サカズキが可哀想に思えるくらいあからさまにサカズキを嫌っていた。
何の理由もない暴力を振るい、にたにたと馬鹿にした笑みを浮かべ、時には罠を仕掛けて嵌まる様子をじっと観察している始末。サカズキが苦しんでいる姿や苛立っている表情が大好きで、自分が売った喧嘩がサカズキに買われていく様を、げらげらと本当に楽しそうに笑いながら、しかし反撃を受けるとなると死なないぎりぎりの距離で避けては逃げていくのだ。
怒り狂ったサカズキと、笑い転げるカルデラの追いかけっこはもはや同期の名物ですらあった。殴られ、蹴られ、中指を立てられ、落とし穴に嵌められ、見ている方がサカズキを気の毒に思うが、止めようにもサカズキが怒った後では近付きようもないほど死闘が繰り広げられているので周囲は逃げるので精一杯である。

「んはははははははははははははははははははははははひィはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」

今日もカルデラの笑い声が響く。彼がサカズキを嫌っているのは周知の事実だというのに、どうしてそんなにサカズキが嫌いなのかは、誰も知らないことだった。


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