サカズキ長編 | ナノ


サカズキは嫌われている。
海軍に入隊してからしばらく、それは日に日に顕著になっていった。過激で融通のきかない性格と、教官から「教えるまでもない」と言わしめる程の怪物的な強さのせいだろう。敬遠され、腫れ物に触るように扱われて、陰口を叩かれることも少なくはなかった。それでもサカズキは気にしていない。心の底からどうでもいいのだ。サカズキにとって大事なのは悪を叩きのめす機会と強さを得ることで、もとより仲間に頼ろうなんて軟弱な考えは持ち合わせていない。危ないものに近付きもせず、ただ影でこそこそと文句を言っている連中など、海賊に怯える一般市民と何の変わりがあるだろうか。海軍に入隊しておきながらなんてひどい腰抜けどもだろうと軽蔑すらしていた。

サカズキの中で、海兵だと認める同期は一人だけだ。ボルサリーノという男。あれは自分と同じくらいの実力で、何者にも物怖じしない度胸を持っている。時折会話することもあるし、組手をすればいい勝負にもなって、知識もあるので共にいても不快にはならない。
サカズキの世界は小さな世界だ。討伐すべき悪と、討伐するのに必要な力を持った人間だけがいればいい。それで充分だ。他には何もいらないではないか。

    そう思っていたのに。

がつん!と頭に強い衝撃を感じて、サカズキは殴られた後頭部を押さえながら振り返った。目眩で定まらない視線の中には、角材を持って、にんまりと笑う男の姿。「カルデラ」と忌々しげに呟くサカズキに、耐えきれないとばかりに彼の唇から笑いがこぼれた。

「ひひ…っ!ひは、ははははは!!ひゃははははははは!!んはははっ!ははは!!!ばァーーか!!!!ぶわァーか!!こんな攻撃も避けられないとか!!サカズキまじでどんくせぇ!!!んははははははははははは!!!」
「おどれェ!今日こそ息の根止めちゃるわ!!」
「んははははははは!!やだー!!サカズキこっわーいひひひひははははは!!!」

狂ったような笑い声。馬鹿にしたように怒り狂うサカズキから逃げていく背中。カルデラという男、あれもサカズキの同期だ。まだ海軍に入隊して日が浅い頃から、サカズキに聞こえるように陰口を叩き、遠くからにやにやと癇に障る顔で眺めていた。それだけならばまだ無視することが出来たのに、最近は執拗なまでに絡んでくるのでそうもいかなくなってしまった。
カルデラは、サカズキを怒らせて楽しんでいる。殴り付け、挑発し、馬鹿にして、サカズキの表情が歪むのを娯楽にでもしているかのようだ。
何故か、なんて聞くまでもない。サカズキは嫌われている。とてもとても、カルデラに嫌われている。それだけの話だ。


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