サカズキ長編 | ナノ


「サカズキのマグマグってチンコまでマグマグなん?チンコが噴火ってなんかやらしいね!よしちょっと見せてみ!」
「やめんか!」

この辺り、何故だかやたらと熱気が篭っていると思っていたら、ボルサリーノは早々に原因を発見した。噂の運命の人、もといサカズキがカルデラに絡まれているのだ。

無視すればいい、いっそ親切にしてやればいい、とボルサリーノは確かにカルデラの対策を伝えたはずだが、どうにも上手く出来なかったサカズキは未だにカルデラの玩具になっている。いや、下手に我慢をしてみるようになった分、カルデラの嫌がらせはエスカレートした。トラップや挑発に加え、聞くに絶えないほど下卑たセクハラまで。ボルサリーノが知っているだけでも、ひどいものばかりだ。後ろから不意に殴られたり、落とし穴を仕掛けられたり、走っていたら急に足元へロープが張られて転ばされたり、トイレに入った途端頭上から水を被せられたり。しかしそれらはまだマシな方だったのかもしれない。
最近のサカズキは尻を撫で回され、公衆の面前で唐突に「サカズキって童貞?」と問われ、下着の中にドジョウを放り込まれ、さらには左乳首のみを執拗にピンポンダッシュされたせいで乳輪が真っ赤に腫れ上がって大きくなってしまった時は、ボルサリーノでさえサカズキを哀れに思った。余計なことなど教えてやらなければ良かったと反省すらした。
べたべたと触られて、猥褻なスキンシップまで受けるようになったサカズキが勿論我慢出来るはずもなく、結局カルデラの望み通りに怒ってしまっている。あれでは何の意味もないどころか、嫌がらせがエスカレートした分サカズキが損をしただけだ。無視も優しくも出来ないならば最初から挑戦しない方が良かった。ご満悦なのはカルデラばかりで、サカズキと顔を合わせる度に高笑いが聞こえてくる。

カルデラはサカズキが嫌いではない。強い人間を妬んでいるわけでもない。ただただ、娯楽にして遊んでいるだけだ。バンジージャンプで崖から落ちるように、ジェットコースターに乗って上下左右に振り回されるように、サカズキを怒らせて殺されるか逃げ切れるかのスリルを味わって楽しんでいる。
恐怖を乗り越えるためでもなく、強い相手を捩じ伏せたいというわけでもなく、ただ死の恐怖に身を浸したいだけなど、ボルサリーノには理解が出来ない。きっと世界中の誰にも、理解が出来ないはずだ。カルデラは頭がおかしい。ならば対策など2つしかなかった。いないものとして関わらないようにするか、自分も頭がおかしくなるか。どちらも出来ないサカズキは、だからこそカルデラいわく『運命の人』なのだろう。愛がこもった甘美な響きであるはずの言葉が、こうも残酷だと思ったのはきっと後にも先にもカルデラとサカズキの場合だけだ。
突出した強さも、短気な性格も、カルデラと同時期に海軍へ入隊したことも、全てがカルデラにとって都合のいい運命である。せめてカルデラがもう少し弱ければ、彼とて死にたいわけではないのだからサカズキを敬遠していただろう。しかしカルデラは、無駄に強い。そして機を逃さない。並大抵の罠には嵌まらない実力を持っているはずのサカズキを何度も陥れ、怒りの沸点を知っているかのように怒り出す瞬間に攻撃がぎりぎり届かない場所まで遠ざかる。ただの馬鹿ではないからこそ、サカズキは哀れだ。

「待たんか貴様ァ!今日こそ殺しちゃる!!」
「んははははははははははは!!出来るわけねェだろうがァははははは!ヒィーーーヒヒヒヒヒヒ!!!」
「じゃかァしい!逃げるな!!」

今日も賑やかなカルデラとサカズキは、仲が悪いと噂されていた頃から比べるととても仲が良く見える。スキンシップが多くなってからは「そのうち付き合うんじやないか」と影で揶揄されていることは、隠しておいた方がいいだろう。その噂が耳に届いてしまったら、おそらく死人が出る。カルデラのせいで犠牲になるのはサカズキだけでいいだろうと思ってしまうボルサリーノは、ある意味とても優しくて、ある意味とても冷たい男だった。


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