カクはマルの為ならなんでもしてやる心意気である。殺してほしい人間がいればどさくさに紛れてサクッと殺るし、死んでほしいと言われたら二つ返事で心中を選ぶ。股を開けと言われなくともすぐに突っ込めるよう準備までしてやるのはわりと日常だ。さらにいえばマルは馬鹿っぽいくらいにでかい乳房が好きなので、女のそれを斬り取って胸元につけてみた時は腹を抱えて大笑いしていた。「カクちゃん!おれはそのままのカクちゃんを愛しているんだよ!」と真面目な顔で言いながらも直後に「ブフォッ!」とこらえきれなかった笑いを吹き出し、あまつさえ血まみれの乳房を遠慮なく揉みしだいていたのではまるで説得力もない。楽しんでくれたなら何よりだが、後片付けが面倒なのでマルのリクエストがない限りは二度とやらないだろう。
カクはマルの望みならなんでもしてやるのだが、マルは基本的に一人でなんでも出来る人間である。CP9らしく器用で順応性が高く、カクに頼みごとをすることは極端に少ない。
遠距離の移動にはブルーノの能力を使い、ルッチには高い酒をねだり、買い物にはカリファを連れていって服を選んでもらうのに、カクにねだったことは一度もないのだ。甘え上手なマルには甘えられる人間がたくさんいて、その中にはカクが入っていない。それがどうにも癪だった。
「…わァ、なんだなんだ、どうしたー?」
「いやなに、手足を斬り落とせばわしが面倒見るしかなくなるかと思ったんじゃが」
刀を思いきりマルの脚にぶち当てたカクは、しかし鉄塊によって折れてしまった刃を眺めながら残念だと眉を下げた。「いきなりどしたのー」と首を傾げながらも視線は漫画を読み続けている。突如として襲った凶行には興味がないらしい。カクは溜め息を吐きながら、マルの懐に潜り込んでがっちりとしがみついた。
「マルの足がなくなれば、わしを頼るようになるかと思ったんじゃがのう」
「ウケる!足無くなっちゃったらおれCP9クビじゃん?」
「……それも困るのう…」
「カクちゃんったら、うっかりさーん」
「いや、いっそわしが養ってやってもええんじゃが…マル、芋虫になる気はないか?」
「芋虫って!人間ですらない!」
けたけた笑うマルには、カクのおねだりを聞くつもりが毛頭ないらしい。ふてくされるカクを宥めるように体を揺すって鼻唄を歌い、頬擦りをしてご機嫌を取っている。しかし未だに漫画を手放さないのだから、カクの妄言を端から本気にしてはないのだろう。
「冗談ではないぞ」
「冗談じゃないねェ」
わかっているのかわかっていないのか。どちらにせよマルの手足がなくなってしまうと膝に乗り上げることも抱き締めてもらうことも出来なくなると気付いたので、今日のところはやめておくことにした。