200000 | ナノ


夏島の夏は、太陽が馬鹿になったんじゃないかと思うほど暑苦しい。汗は滝のように流れ出し、頭に熱がこもってくらくらする。直射日光で肉が焼けるんじゃないかと誰かが言い出したら、それならいっそバーベキューでもしたらいいと誰かが乗っかって、誰かが実際に鉄板を外に持ち出してステーキ肉を乗せてみたらみるみるうちに焼けていくものだから、そこからはあっという間にバーベキューパーティーが始まった。
どうせ暑いなら楽しい方がいいと、自棄になったかのように飲めや歌えやの大騒ぎ。熱で頭がおかしくなっているのか、突然奇声を発したり目が据わっている奴等も結構いて、それを見ながら木陰で笑ってるのはレイリーさんやクロッカスさんといった落ち着きのある人達だ。いつもならそこになまえさんもいてニヤニヤしているはずなんだけど、今日は不思議と見当たらない。かといって騒いでる面々の中に混じっているわけでもないようだ。きょろきょろと視線を彷徨かせて探していると、被っている麦わら帽子の上にポンと手が乗った。「なまえさん?」    じゃ、なかった。見上げた先にいたレイリーさんは、ニヤッと笑って親指で島の奥、森の方を示す。密林のように生い茂る木々の中、一番手前の大木の裏側に誰かがいるようだ。座り込んで伸ばした足先だけがこちらから見えている。

「この島に近付くにつれて機嫌が悪くなってな。シャンクス、頼んだぞ」
「えっ」
「ほら、行ってこい」

背中を軽く押されて、促されるままに森の方へ向かう。木陰に入ってもじりじりと焼け付く直射日光が和らぐだけで、茹だるような熱気は常に体に付きまとう。首筋から流れる汗を拭いながら件の大木の裏を覗くと、いた。なまえさんだ。目を瞑って、ぐったりと背中を木に預けている。髪もシャツも汗で湿って肌に貼り付いて、ちょっと目が離れなくなってしまうくらいエロい。

「…なまえさん?」

話し掛けても目は開かない。そっと近付いて手を伸ばせば、触れる直前になまえさんの手がそのの手を取った。それからすぐに引っ張られて、おれの体は傾いでなまえさんの上に倒れ込む。

「わっ」
「…ようシャンクス、どうした?」
「っあっぶねェなァ!起きてたなら言えよ!」
「いま起きた」
「うそつけ!」

にやにやしながらおれを脚の上に乗せたなまえさんは、いつもと変わらない様子でキスをひとつして、首筋に鼻を寄せる。いつもなら全然気にしないけど、今日は汗で蒸れて臭くなっていそうだから居心地が悪かった。少し体をずらそうとするけれど、なまえさんの腕が腰をがっちり掴んでいて離れられない。

「…汗すごいだろ」
「お互い様だ」
「なまえさんはそんなに汗臭くねェな」
「お前もな。肉と酒の匂いがする」
「そりゃ、ついさっきまで飲み食いしてたから」

あんたは食いに行かねェの?と聞こうと開いた口にまたキスをされて、舌がぬるりと入ってくる。
近くにみんないるんだけどな。まァ、いいか。どうせあっちからは見えないし。こうやってキスすんのも久しぶりだし。

「…ん、…ふ…っ」
「…シャンクス、もっと口開けろ。ほらあーん」
「えあ、…ん」

暑さのせいか、頭がくらくらしていつもより気持ちいい。湿ったシャツの中に手が入ってくる。皮膚が擦れると、どろどろの汗で滑って背筋が痺れるみたいに気持ち良かった。ちゅ、ちゅ、と音を立てて何回も唇や舌を吸われながら体をあちこち撫でられて、腰から力が抜けそうだ。なまえさんの肩のシャツを握りしめると、ようやく長いキスが終わって、顔を見合わせながら一息ついた。

「……なまえさんは?」
「ん?」
「肉、食わねェの?」
「…いらね」
「なんで?」
「この暑さであんなもん食いたがるお前らが理解出来ねェよ」
「夏バテしてんの?」
「ちげェよ。寝不足なんだ」
「暑くてだろ?そりゃ夏バテだよ」
「お前がいなくて眠れねェんだよ」
「………嘘くせェなァ」

ここ数日は、暑くてとても二人じゃ眠れない。この島に近付くに従って確実に上がっていく気温は、ひとつのベッドでくっついて寝るには辛かった。夜中に何度も目を覚まして、水をもらいにいくついでに本来の寝場所である大部屋へ逸れたままなまえさんの所に戻らなかったのは三日くらい前。なまえさんは何も言わなかったから、おれも何も言わないままそれからずっと大部屋で寝てる。
暑いから離れた方が寝やすいだろ。そう思って行動したのはおれだけど、なまえさんだって何も言わなかったから同じ気持ちのはずだ。

「おれがいなくて寂しかった?」
「そうだな。お前無しじゃ眠れなくなっちまった」

いつもからかわれているもんだから、たまにはおれだってやり返してやろうかとにやにやしながらからかってみたけれど、ストレートに打ち返された挙げ句にまたにやにや笑ってキスをされる。「責任取れよ」と言われても、おれに天候が操れるわけでもあるまいし。

「どうしろってんだ」
「戻ってこいよ。大部屋だって暑い上に汗臭ェだろ」
「あんた、ぎゅうぎゅう抱き締めるから、余計あっちィ…」
「なら一晩中扇いでてやるよ」
「それだと結局あんた寝れねェじゃん」
「は、それもそうだな」
「ん」

なまえさんの掌がシャツの中に滑り込んで臍から胸元までをなぞる。遊んでるみたいに体中撫で回して舌と唇を食われそうなくらいキスをしてぎゅうぎゅう抱き締められて、なまえさんの気が済む頃にはおれの頭は熱と暑さで茹だって何も考えられなくなっていた。くらくらする。熱い。なまえさんの声も、みんながはしゃいでる笑い声も、自分の口から漏れる荒い息も、全部が遠くに聞こえた。

「あ、つ、ァ、も…や」
「シャンクス」
「あつい、やだ、もう、なまえさ、や、だ」
「シャンクス」
「ん、う」

ボーッとする。おかしくなりそうだ。今が夢なのか現実なのかもわからない。シャンクス、と何度も呼ぶなまえさんは目の前にいるのに、ずっとずっと遠くに居るようで、腕を首に回して引き寄せた。こんなに近いのに、キスだってしてるのに、なまえさんが遠くにいるみたいでなんだか嫌だ。ただでさえよくわかんない人だっていうのに、離れてしまったら余計わからなくなる。

「なまえさん、なまえ、さ、」
「…ずっと冬島ならいいのにな」
「なに…?なんて?わかんない、もっかい」
「冬島なら、お前はずっとおれのとこにいるだろ」
「きこえない、あたま、あつい、やだ、も、きす、やだ」
「お前がいなきゃ眠れねェよ、シャンクス」

珍しくにやにやしてないなまえさんも、暑さで頭がおかしくなってしまったんだろうか。似合わないくらい真剣な顔で、キスをして、おれをゆっくり地面に押し倒した。

「…好きだよシャンクス。愛してる」

聞こえないんだよ、なまえさん。なァ、もう一回言って。





「おいなまえ、シャンクス。べたべたしてないでそろそろこっちに戻っ、…………………クロッカス、急患だ!熱中症が二人!!」


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