200000 | ナノ


※50000企画のこれの続き



なまえはサンジが好きなのだと、ゾロはずっとそう思っていた。
よく手伝いをしている姿を見かけるし、なまえからサンジに話しかけることは多いし、ゾロは知らないような秘密をサンジが知っているような素振りだってちらちらと目についた。
それが苛つくのは、最初はサンジへの対抗心だと思っていた。同い年で同性のゾロとサンジはライバル心からか元より性根が合わないのか衝突することが多く、なにかと喧嘩をしてばかりだ。なまえのこともその延長で、新入りが自分よりもサンジに懐いていて気に食わないのだと、そう考えていた。
それが違うと気付いたのは、ゾロの鍛練を黙って眺めているなまえと目が合ってしまった、ある日のことだ。その時なまえは、サンジと話している時の楽しそうながら少し意地の悪い表情とは違う、ひどく優しい目をしていた。「なんだよ」と聞くと「なんでもないよ」と笑い、「集中力を鍛えるために手伝ってあげようか」と指を卑猥に動かして茶化したので、「いらねェよ、バカ。邪魔すんならどっか行け」と鼻で笑った。するとなまえは少しだけ眉を下げてまた笑うと、あっさりその場を後にしたのだ。

サンジが怒ってもしつこく付きまとうくせに。
サンジにうるさいと言われても話し掛けるくせに。
なまえは決して、ゾロに踏み込んではこない。それはきっと、サンジとゾロとで好意の量が違うせいだ。

その上、向かった先はゾロの記憶違いでなければキッチンだった。ああそうか、またサンジのところへ行くのか、と察した瞬間、どうしようもなく腹が立った。

はて。さすがにこれはおかしい。
例えばルフィがサンジに飯をねだっていても、チョッパーがサンジにミルクをもらいに行っても、こんなに腹が立ったりはしないというのに、何故こんなにも苛つくというのか。
自分の腹の虫がどうにも治まらないのを不思議に思って首を傾げ、すぐに閃いた。

    なるほどおれは、あいつが好きなのだ。

気付いたはいいが、気付かなければ良かったとも思う。おそらくなまえはサンジが好きだ。その事実にも気付いてしまって余計に腹が立った。なまえが男でありながら男が好きだという男であることは、この船に乗ったその日にカミングアウトされている。それを聞いたウソップやサンジは、尻を隠して恐れおののいていたはずだ。そう、サンジが無類の女好きであることは周知の事実である。男に生まれてしまったなまえに報われる要素がないことは一目瞭然。哀れなやつだと思った。そして、おれにしとけばいいのに、とも。

ゾロは自分の欲求に素直な男だ。好きなものは好きだし、欲しいものは欲しい。しかしその半面、堪え忍ぶ男でもあった。なまえの心が既に別の人間のものであれば、諦めるのもやぶさかではないと。

しかしなまえは仲間である。船に乗っていればサンジとのやりとりを日に幾度も目にするし、その上なまえは何が楽しいのかゾロが体を動かす様を毎日毎日眺めにくるのだ。ゾロは欲求に素直で、堪え忍ぶ男でもあったが、結局は血気盛んで短気な性根をしている。好きなものを嫌いとは言えない。自分を殺してまで他人に譲ってやるほどお優しい人間でもない。
時折なまえに八つ当たりをしては、悶々とした日々を過ごしているうち、ゾロは気付いた。

なんでフられるとわかっている人間を、フる人間に譲ってやんなきゃいけねェんだ。

ゾロは欲求に素直で、堪え忍ぶ男でもあり、それでいて血気盛んで短気な性根をしているが、大事なところでとても鈍感だ。
このままでいけば誰も得しないことに気づくまでに、随分と時間を費やしてしまった。
しかし腹を括ればあとは早い。だからある日、昼間に散々寝ていて夜に鍛練をしていたゾロを眺めていたなまえに、月明かりの下で告げたのだ。


「お前、おれにしとけ」
「……………………………………………………………………うん?」

唐突に求められたなまえは、鳩が豆鉄砲を喰らってもこんな顔はしないだろうというほど間抜け顔をしていた。それに少し笑うと、「……あ、冗談?」と安心したような、残念ともとれるような、複雑な声色でなまえも笑ったので、ゾロはトドメを刺してやる。

「冗談でもねェよ。あの女好きコックに報われねェ恋なんぞするより、おれにした方がずっと前向きだっつってんだ」
「…………やめろよ、そういう…」
「そう簡単には譲れねェってか?」

正直に言おう。ゾロは少し、楽しんでいた。元より手強い相手に挑むのは興奮するタチだ。戸惑ったように口ごもるなまえに一歩近付いて、噛みつくように胸ぐらを掴んで引き寄せた。「男が好きっていうなら、おれも対象には入るわけだろ?」。これは宣戦布告だ。お前を必ず手に入れるつもりだという挑発に、なまえがゾロを意識すれば万歳。サンジを諦めてゾロに引き込まれれば万々歳。どちらにせよゾロは諦めるつもりなど毛頭ないのだから、あとはなまえの意志がどれだけ保つかの問題だ。

「ゾロ、」
「は、なっさけねェ顔してやがる」
「う」

ぶちゅ、と色気も何もない、唇を押し当てるだけのキスをすると、なまえの体が強張った。男が好きだと公言しているわりに、随分と初々しい反応だ。ゾロが喉の奥で笑うと、慌てて顔を離したなまえは顔が真っ赤になっていた。「ゾロ」、と呼ぶ声は、ひどく切なそうに歪んでいて    

    ん?」

がっ、と勢いよく肩を掴まれたゾロは、なまえの表情がやけに熱を持っていることに気付いた。目がギラギラとしていて、まるで飢えた獣のようだ。「ゾロ」。なまえが呼ぶ、その声は、まるで恋に浮かされたかのように情熱的だった。

「……おいおい、落ちんのが早すぎだろ」
「ゾロは、勘違いをしてる」
「あ?」
「サンジくんは別におれの好みでもないし、抱きたいと思ったこともない」
「…あ?」
「ゾロ、お前だよ。おれが好きなのも、抱きたいと思っていたのも、嫌われたくなくて、サンジくんにばかり逃げていたのも、お前のせいなんだよ、ゾロ」

掴まれた肩がやけに熱くて、震えている。戸惑っているのではない。興奮しているのだ。ゾロが火をつけてしまった。爆発寸前のなまえはそのまま押し倒す勢いでゾロの唇を奪うと、先程のかわいらしいキスとは比べ物にならないくらいの熱でゾロの口腔内を荒らしていく。きつく吸われて痺れてしまった舌は、うまく動かず喋れない。「ゾロ、好き。ゾロもおれが好きなんだって、そう思って良いんだよな?」。小さく頷くと、また唇が近付いてくる。すきだ、としつこいくらい繰り返す声に返事も出来ない。我慢していたのかと気付いて可愛く思えてしまったゾロは、止める理由もなくてされるがままに喰われてやることにした。

鰹節にむしゃぶりつく猫のごとくゾロに夢中になっているなまえは気付いていないだろう。
ゴキブリでも発見したような顔のサンジが、キッチンの丸窓からこっちを見ている。「くたばれクソホモ野郎」。口パクで伝えられた罵倒にファックサインで返して、そのままなまえの頭を撫でてやると一層深く口付けられた。

ゾロの挑発により発情してしまったなまえが甲板でおっぱじめようとするのだけは見過ごせなかったサンジが、邪魔をしにやってくるまであともう少し。
今なら頭を下げてやってもいいかと思ってしまう程度に、ゾロは満たされていた。

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