200000 | ナノ


クロコダイルはなまえの裏切りを待っている。

彼は馬鹿な男だ。なんの利益が無くても、クロコダイルを好きだと言って甘やかして憚らない。クロコダイルのやることなすこと否定せず、クロコダイルが世界の中心だと考えているらしい。くだらない要求から命懸けの仕事まで、二つ返事で叶えてくれる。

随分と昔の話だが、なまえが毎日のようにクロコダイルを目に入れても痛くないというので、試しに指を突き入れてみたことがあった。もちろんなまえは激痛に声もなく呻き、翌日「やっぱり物理的には痛かった、ごめん」とクロコダイルに謝ったのだが、突いた右目が二度と光を映さなくなった点については、なまえはクロコダイルに何も言わなかった。

こんな話もある。
バロックワークスを起業するに当たって資金が足りないとぼやいたら、クロコダイルが手頃な海賊から奪ってくるより早く、自分の家や船、資産を売り払ってにこにことクロコダイルに差し出すものだから、それからしばらくなまえは一文無しで食うのも困っていたようだ。クロコダイルは何も施しを与えてはやらなかったけれど、それでもなまえは痩せこけた顔でにこにこと笑っていた。

なまえはとても、コストパフォーマンスのいい男だ。無理難題を押し付けても、クロコダイルに必ず利益をもたらす。その上クロコダイルに何かを要求することもない。せいぜいクロコダイルの機嫌が良い時にキスやハグを許してやっているくらいだ。その程度でずっとにこにこと笑っているのだから、なんとも燃費がいい道具だった。

いずれなまえはクロコダイルに食い潰されて死ぬだろう。それでもいいよ、と、なまえはきっと許すだろうから、クロコダイルはなまえが裏切るのを今か今かと待ち望んでいる。
どうせなら裏切られて殺したいのだと伝えたら、なまえは笑ってそれすら叶えようとするのだろうか。愛することも、信じることも、クロコダイルはしてはいけないのだから。本当にクロコダイルを思うなら、なまえは早くクロコダイルを裏切るべきだ。自分以外の誰かを求めてしまうようになる、その前に。

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -