「ロットのデートはどうだったって?」
世間話のような気軽さで踏み込まれた話題に、モモンガは一瞬息を詰めた。問い掛けてきたヤマカジはにやにやとしているが、これは彼の標準的な表情のためにその真意はわからない。ロットが自分に向ける感情を知っていての質問であれば、先日ロットとの食事において店の予約を請け負ったというヤマカジが冷やかしのつもりで聞いてきているというのも理解は出来る。やめろとは思うが。
しかし『どう』とも言えず「なんのことだ?」ととぼけたモモンガに、ヤマカジの反応は予想と少し外れたものだった。
「あん?なんだ聞いてねェのか?オメェなら一番に聞かされてると思ったんだが」
「…何をだ?」
「好きな人をデートに誘うんだってよォ、大人っぽく見せたいってんでどこがいいって青くせェこと聞いてきやがった」
お前には聞いてないのかと問われて、ヤマカジがロットの想い人を把握していないのだと察する。そういえば、と思い出す素振りで「聞かれたな、その時は慌ただしくてきちんと答えてやれなかったが」と適当な返事をすれば、ヤマカジはなるほどとばかりに頷いた。だからおれに聞いてきたんだな、と真実を隠しているものからすれば見当はずれの納得をしているが、わざわざ訂正することもない。勘違いしてくれているうちに話題を変えてしまおうと来週の合同遠征について計画を口にしようとしたモモンガに、しかし二の句を継げるのはヤマカジの方が先だった。
「相手はあの、同期の嬢ちゃんだろ?」
「…なに?」
「まあ名前は出なかったが、そこかしこであんだけ嬉しそうに絡んでりゃなあ」
「…そんな、のが、いたか?」
「いただろ、尻尾振って、ぐるぐるまとわりついて、なんとかちゃんなんとかちゃんって」
それは自分にまとわりつくロットの姿ではないのか。『同期の嬢ちゃん』に心当たりがなく、黙り込んだモモンガにヤマカジは首を傾げた。
「…なんだ、あんだけ懐かれてて何も知らねェのか?」
「少しは興味持ってやれよ」、などと。そんなことを、まさか、言われる筋合いなど。