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自分のことを好きでも嫌いでもない人が好きなアイスバーグさんと、アイスバーグさんを好きでも嫌いでもない男の話。


ウォーターセブン編前のアイスバーグさんは自分のことを好きでも嫌いでもない人を好きになりそう。
船大工としても市長としてもトムさんの弟子としても、どの立場の自分であっても色々ありすぎて精神が摩耗しているので自分に対してなんの期待も悪意も持たない人に安心してしまう。自分に興味のない人が好き。

そんなアイスバーグさんが、ある日どうしようもなく全ての人にとって他人になりたくて遠出した先の酒場で主人公と知り合う。寂れた店内で客もまばらなそこで、ギター一本で弾き語りしてた主人公。上手いとも下手とも言えない歌が終わって、気まぐれにチップで一枚コインを放り投げたら、愛嬌のある顔で「ありがと」って言ってそのコインで安酒を頼んでアイスバーグの隣で飲み始めたのでお互い飲み終わるまで他愛もない話をした。どんな歌が好きとか、いつもここで歌ってるのかとか、このあと夜中に雨が降るらしいとか、話しても話さなくてもいいような、会話の大半を忘れてしまうようなどうでもいい話。
相手は自分のことなんか知らない様子で、元々陽気な性格なのか酔っ払ってるのかわからないけど楽しそうに飲んでる様子見てアイスバーグさんも久々に何も考えず飲んで笑って酔っ払って、主人公の酒が無くなりそうになるともう一曲歌ってくれってリクエストして終わったらチップ払ってそのお金でまた主人公が酒飲んで、っていうのを何回か繰り返して二人ともべろんべろんに酔っ払った頃に外は雨が降りはじめてきて帰るの面倒臭い近くでホテルとって泊まろうお前も来いもう少し飲ませてやるって感じで酒場から酒とツマミをテイクアウトして近くのホテルでまた二人で他愛もない話をしているうちに「なんかムラムラしてきちゃった。気持ちいいことしよ」って主人公が誘ってきて、アイスバーグさんも酔ってるから「いいぞ」ってアッサリ一線超えちゃった。
翌朝真っ裸で一つのベットに入ってる現場にアイスバーグさんは頭抱えて「なにやってんだおれは…」って嘆くけど、主人公の方は「気持ちよかったよ。また相手してね」ってなんてことないことのように言うので、慣れてるんだなと思ってアイスバーグさんも気にしないことにした。
それからアイスバーグさんは元の日常に戻って毎日忙しく過ごすけど、また心が摩耗してくるとなんとなくあの時の酒場に行っちゃう。
主人公がいる時もあるし、いない時もある。いる時は以前と同じように歌わせて飲んで話して酔っ払ってホテルでセックス。いない時は静かに飲んでそのまま帰る。それを何度か繰り返してるうちに、「ヤらせてくれるなら好きな時に呼び出していーよ」ってポイっと連絡先渡された。

この時点でアイスバーグさんは主人公にちょっと依存しかけてる。お互い名前と連絡先くらいしか知らなくて、相手は自分への興味なんて体くらいしかなさそう。でも頭を使わない馬鹿げた会話も、詮索してこない無関心な態度も、機嫌が悪くて当たってしまっても笑って流すようなお気楽な性格も、何もかもがとても楽。主人公と会う=酒とセックス、なので、何も考えずに気持ち良くなるのが堕落的でいけないことだと分かってても疲れた時や過去のことで何か起きた時にはどうしても主人公に会いたくなる。ちょっと昔の話とか愚痴とかポロッと零してしまっても、「かわいそうに、よしよし」って抱きしめて子供慰めるみたいに頭を撫でたりするくらいで大して興味もなさそうなのがまた良かった。同情してほしいわけでも、忘れさせてほしいわけでもなかったので。
ただ側にいて、頑張ったねって認めてくれて、明日からまた頑張りなよって突き放すみたいに背中を押してくれるだけでよかったから、主人公の他人の事は他人事みたいな態度がちょうどよかった。

アイスバーグさんは主人公の年齢も住所も職業も知らないけど、幼い顔立ちをしてるし寂れた店で弾き語りしてるくらいだから売れないシンガーなんだろうなと思ってる。若くて将来のことは何も考えてないんだろうと呆れつつ心配もしてしまうので、たまに歌わせた後のチップは弾んだり、ホテルや酒代は全部アイスバーグさん持ちだし、脱ぎ散らかしたズボンのポケットにそっとお小遣い入れたりしてる。余計なお世話の過干渉だと思いながらも、主人公も嫌な顔せず気持ちよく喜んでくれるのでついついやってしまう。根無し草っぽい主人公への心配3割、あとは自分の現実逃避に付き合わせている後ろめたさ2割、残り5割はアイスバーグさんの世話焼きな性分からくる行動。

そんな援助交際みたいなやり取りが何年も続いても、二人の関係は全然変わらない。

主人公はいつまで経っても根無し草みたいな様子だし、アイスバーグさんがしばらく忙しくて全然会えなかったとしても気にした様子はない。
どうせ自分みたいなパトロンやセフレが何人もいるんだろ、と思うとイライラしちゃうけど、自分と会ってるときには他の人の話は一切しないので、そこらへんのマナーは弁えてるんだろうなと感心しつつ、逆にその徹底した態度がまた慣れを感じさせて腹が立つ。深入りされないから気に入った癖に自分は深入りしそうになってしまうし、相手が深入りしてきそうになったら逃げたくなるのはわかっているのに、愛情に関してまともな感性を持つアイスバーグさんは、きっかけがどんな理由であれ一度好きになった相手をセフレみたいに扱うのは無理。でも今更普通にお付き合いするのは、相手も自分も望んでいない。自分の中にあるジレンマに悩みつつぐだぐだと関係を重ねることさらに数年。例のルッチ達による事件でアイスバーグさんは死に掛ける。ごたごたしすぎて、主人公のことなんか思い出す暇もなかったんだけど、一連の騒動が終わって、フランキーさんを送り出したことで過去に対する気持ちにも整理がついて、ウォーターセブンも落ち着いた頃に今までの疲れがドッと来て主人公のことを思い出してものすごく会いたくなるんだけど、それと同時に多分今まで通りの関係では満足出来なくなってるので連絡するのは躊躇ってしまう。

色々吹っ切ったアイスバーグさんはもはや全部のことに関して諦めるつもりがない。欲しいって思ったら絶対手に入れるし中途半端は許さない。元々頑固だったけど行動力と覚悟が上乗せされて加速した。自分に対して興味がなさそうなところに惹かれたくせに、興味も好意も全部欲しいと思ってしまったのでなおのこと連絡を躊躇っちゃう。だっていざとなったら主人公なら囲えそうだから。金銭的にも社会的にもアイスバーグさんの方が圧倒的強者なので、本気出せば外堀から埋めて籠絡出来そうなのが逆に怖い。自由と奔放を愛する主人公を縛り付けたいわけではないので、相手の意思を無視した好意は単なる独りよがりだと解ってる。解ってるけど感情に制御が効きそうにないから自分が怖い。

会いたいけど会ったら今までと同じには出来ないし、好きだから自分のものになって欲しいとか言って拒絶されたら何するかわからないし、とウダウダ悩んだけど、結局はええい興味がないなら持たせるまでだ惚れさせてやろうじゃないか!と腹を括って電話。会いたいって言ったらいつも通り二つ返事で了承が来て、その日の夜にいつもの場所で会うことに。

まだ仕事でバタバタしててアイスバーグさんは待ち合わせにだいぶ遅れちゃったけど、主人公は怒らずに「お疲れさま」って微笑んでくれて改めて好きだなーと思う。言葉を尽くして伝えなくても全部の苦労を認めてくれる雰囲気とか、でも甘やかすわけじゃなくて次の日はちゃんとまた市長としても社長としても船大工としても生きていけるように「お仕事頑張ってね」って送り出してくれるところも、けど市長でも社長でも船大工でもないアイスバーグさんでも受け入れてくれるところも全部好き。関係を改めたら今まで通りにはいかないかもしれないけど好きになってしまったもんだから自分のものにしたいし好きになってもらいたい。
どう切り出そうか酒を飲みつつ考えてたら飲み過ぎちゃってぐでんぐでんに酔って主人公も酔っ払っていつも通りの流れでセックス。気持ちよくなりつつ「こんなんじゃダメだ」と思って、終わった後に眠そうな主人公を引っ叩きながら「実は会わない間こんなことがあって」とぽつぽつ話していく。最初は眠そうだった主人公も、途中からちゃんとうんうんって頷きながら、頑張ったね、辛かったね、怪我はもう平気?って頭撫で撫でしてくる。生意気なやつめ、って思いながらもすごく安心しちゃって、今度はアイスバーグさんの方が眠くなってきちゃう。今までのこと全部話して、主人公が自分に興味がないから都合が良かったってことも話して、なんとか最後の「お前のことが好きになってしまったんだ、今までの関係じゃ満足出来ない」ってところまで伝えたけど主人公の返事を聞く前に寝落ち。朝起きたら主人公はいなくて、サイドボードに「お仕事頑張ってね」の書き置きだけ。
あーフラれてしまったな、とぼんやりしたまま、午後からの仕事に間に合うように支度して、ガレーラカンパニーに戻って、仕事して、夜から少し離れた島に住んでる事業家と会食。相手は自分と同じくらいか少し若い程度の大会社の社長さん。親から継いだ事業を大きくしていて、貿易船が必要で今までに何度か発注受けてる。ウォーターセブンが大変なことになったと聞きつけて事件直後も多額の見舞金送ってくれて、さらにこれからガレーラにも支援金出してくれるというのでお礼の会食。発注の伝達もお金持ってくるのも部下の人だったので事業家本人を見るのは初めてだったけど、誰かに似てる気がするなァとついついガン見しちゃうアイスバーグさん。いつもならもう少し頭働いてるけど、朝に好きな人からフラれたばっかりなので仕事はこなすけど結構ボンヤリしてる。

「大丈夫?なんかぼーっとしてるけど」
「え、ああ、いや、すいません、少し考えごとを…」
「疲れてるのかな。無理にスケジュール空けてくれなくても良かったのに」
「いえ、この度は多大な支援を賜わりまして、以前からのご贔屓も合わせて一度直接御礼を申し上げたいと…」
「…うん、いや、あのさ、やっぱ疲れてんだよ。アイスバーグ、気付かない?」
「え?」
「おれだよ」

どこかで会ったっけ…確かにどこかで会った気がする…と悩むアイスバーグさんを前に、相手はからから笑って「愛が足りない!」って整ってる髪型ぐしゃぐしゃ崩して、スーツのジャケットとネクタイ外してラフな格好になったらあら不思議、出来る男の雰囲気が無くなって、朝自分をフッた男の姿に!!!

「!?」
「あはは、ちょー驚いてる」
「なんで、お前!」
「別に騙してたわけじゃないんだけど、黙ってた方が都合がいいみたいだったから」

事業家の男として現れた主人公いわく、アイスバーグさんに初めて会った時は主人公も息抜きの最中だったとのこと。
生まれた時から親の家業を継ぐことを定められてた主人公は、歌手になりたいという夢を諦めて大人しく親の後を継いで順調に事業を広げてるけど、元々が奔放でぼんやりしてる性格なので毎日の慌ただしい日々や何百人の部下の面倒を見なくちゃいけない立場に心が摩耗することもしばしば。しんどいなあ疲れたなあ逃げたいなあと思う日には貧乏人みたいな格好して少し遠くの島まで行って寂れた酒場にギターの流しとしてお邪魔するのが唯一の息抜き。自分のことを誰も知らないところで特別上手いわけでもない歌をうたって詰られたり褒められたり酒を奢ってもらうのが、諦めた夢の続きを見てるみたいで楽しい。
そんな日々の中で出会ったのがアイスバーグさん。仕事でガレーラに何回かお世話になってたのでアイスバーグさんのことは勿論知ってたけど、自分が息抜きしてる最中だから相手の気持ちもわかるし、黙ったまま一晩付き合って、そしたら相手は何を気に入ったのかまた会いに来てくれた。
何度も繰り返し会ううちに情も湧いてきて、力になってあげたいなあと思うんだけど、アイスバーグさんがそんなことを望んでないのは知ってるので、今まで通りだらしなくて考えなしで人の好意に甘えるダメ男のままで過ごす。幸い童顔で髪型と服装次第で主人公は実年齢よりめっちゃ若く見られるので、アイスバーグさんは自分と年齢が近いとは全然思ってなくてめっちゃ甘やかしてくる。自分は甘やかされるの嫌がるくせになあと思うし、会えない期間が空いたらすごい心配だし、むしろ自分から連絡して会いたいって言いたい。でも言えない。アイスバーグさんは、主人公が自分に深入りしてこないからお気に入りにしてくれてるって主人公は勘付いてるから言えない。あーーほんとおれってイイ子ですよ親の期待に応えて好きな子の期待に応えて自分の感情は全部諦めるんだからすごいイイ子!って自画自賛するけど、本当は大事な人に嫌われる勇気がないだけだって気付いてる。察しがいいんです。要らないところにも気付いてしまうから、自分が諦めた方が周囲は幸せになれるって知ってしまうんです。

ウォーターセブンが大変なことになったと新聞で知った時も頭抱えて悶々としてる。せめてもの手助けになればと会社名義で多額の支援金出したけど何よりもアイスバーグさんの顔が見たい。無事を確かめたい。元気な顔が見たい。でも忙しい時に会いたいとか言えないし恋人でもないのに鬱陶しいだろうし、そんなことしたら二度と会ってもらえないかも。悶々。
おれに出来ることなんて所詮金だけさ!とガレーラにも融資の連絡したところ、お礼を言いたいと会食の連絡が。本来なら現社長の自分が行くべきだけど、正体を現したらそれこそ期待外れになってしまうのが怖くて一度断った。しかし不在の時にもう一回連絡来たのを秘書が勝手に受けちゃった。まあ確かにいつもはそういうの無条件で受けますからね。あーはいはいわかりました、副社長か今は引退してる前社長(父)にでも行ってもらお…と画策してるところに、アイスバーグさんからの連絡。そして告白。
一応は、おれも好き、でもまだ内緒にしてることがあるって伝えたんだけど寝落ちしたアイスバーグさんには聞こえてなかったので、朝一で急いで自分の会社に戻って夜の会食はおれが行くって伝えてその分の仕事全部終わらせておめかししておめかししすぎていつもの主人公とは雰囲気が変わりすぎてしまったのでアイスバーグさんは初見でわかんなかったというオチ。

「おれだってずっと好きだったよ。でもアイスバーグは『好き』じゃダメだったんだろ」

「それでもおれのこと好きって言ってくれるなら、おれもアイスバーグに全部知ってもらいたいと思って」

「もしかしたらこういうおれは要らないかもしれないけど、好きな人が危険な目に遭ってお見舞いにも行けないのはもう嫌だから」

って淡々と語る主人公に、アイスバーグさんはポカンとしてる。何にも言わないので主人公も不安になってきちゃって、そっとアイスバーグさんの手を握りながら「こういうおれは、だめ?」って上目遣いで聞いて思わず「ダメじゃない」って即答でアイスバーグさんが返事してくれたので晴れて恋人同士です。
主人公は確かに今まで我慢してる部分はあったけど、わざと性格変えて騙してたわけじゃないので主人公らしいところを見せられてしまうとアイスバーグさんは陥落する。思わぬ正体にルッチ達のこと思い出してトラウマ抉られたり、いつもと雰囲気違いすぎて戸惑ったけど、主人公が主人公ならアイスバーグさんは何も問題ない。

とはいえお付き合いを始めても大して今までと変わらなかったりする。
主人公からも定期的に連絡してくるようになったけど、お互い忙しい身だからあまり会えないし、他に邪魔をされたくないので会うときはいつも遠出。主人公もそもそもアイスバーグさんと会う時の自由で奔放な性格が元来の性格なので、いちゃいちゃしてる時は「こいつ本当に大会社の社長なのか」と思うこともしばしば。逆に仕事で会うことになるときっちりしてるので、あーもしかしてこれは仕事の方で無理してるのかと気付いてからはアイスバーグさんも主人公を労っててあげるようになる。でも主人公は労われると甘えたくなって普段がしんどくなるので今まで通り知らんぷりで全然構わない。むしろ仕事に関しては厳しいくらいにケツ叩いてくれ…って思ってる。

アイスバーグさんの愛は干渉。自分が出来ること考えられる最善全てを尽くして相手に捧げるので、相手によってはそんなことまで口出してくんな!って言われちゃう。よく言えば頼もしくて悪く言えば鬱陶しい。
主人公の愛は受容。辛かったら甘やかして慰めて慈しんであげるけど、頑張りたいことがあるなら背中を押して突き放す。相手が要求するまで自分からは動かないので、よく言えば尊重してくれて、悪く言えば主体性がない。

それなりに相性はいいけど年に何回かはすっごい擦れ違いが起きそう。それでもアイスバーグさんは主人公のこと手放す気はないし、主人公もアイスバーグさんから言い出さない限り別れるつもりはない。つまり別れない。

オチまで書くのにめっちゃ長くなってしまったけど、自分のことを好きでも嫌いでもない人が好きだったアイスバーグさんと、アイスバーグさんを好きでも嫌いでもないふりをしていた男の話でした。

2018/05/24

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