どうしてあんたは巨人に生まれたんだろうね。
大きな体を上から下まで眺めて呟くと、彼は困ったように笑った。おれも巨人族なら良かったのにね、と続けて言えば、今度は人を潰せる指先がおれの頭をゆっくり撫でた。
「お前はそのままでも十分大きいでしょうに」
「普通の人間と比べたってしょうがないじゃないの。おれはおれとあんたとの話をしているんだから」
「それもそうだね」
まるっきり他人事の口調で言った彼は、おれがすっぽり入ってしまいそうなサイズのマグカップに注がれたコーヒーを啜る。反対の手では大木みたいなペンを指に引っ掛けてぶんぶん振り回しているけど、おれがだだっ広い机の上にある書類を絨毯代わりにしているから彼は仕事の続きが出来ない。でも怒らないし、退かそうともしない。それに気をよくして、おれはコーヒーを持っている彼の腕に攀じ登った。
「こら、危ないでしょうが」
まるで子供扱いの窘める声がむず痒い。「おれもうそんな歳じゃあないよ。あんたを抜かして大将になったよ」。何度言ったって彼から返ってくるのは同じだ。「おれから見ればクザンなんかまだまだ子供だよ」。
おれを子供扱いするなんて、ガープさんか彼くらいだ。ガープさんはさておき、彼はでかすぎるのがいけないと思う。恋人だというのに、不意打ちのキスもろくに出来やしない。
2012/11/01