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*神楽視点




どうしてケンカをするんだろう。

と思う自分だって毎日というくらい口ゲンカも、時には殴りあいのケンカもするけれど、
この2人は毎日ではないけれど些細なことでケンカをし続けている。





「いつまでもうだうだやってないでさっさと稼げやこの無職野郎」

凛としたその声が神楽は大好きだ。
しかし、今の姐御は縁側で洗濯物を畳んでいて、そこから黒いオーラが滲み出ている。
自分ですらうかつに近寄ろうとは思えない。

「って、そこのクソ白髪に言っておいてくれる?新ちゃん」

姐御の後ろで定春を撫でながらちらりと部屋の中を見れば、
テーブルでアイドル雑誌を読んでいるメガネは、はぁいとやる気のない返事をした。

「ですってよ、銀さん」

新八のさらに後ろで寝転びながらジャンプを読んでいる男は、

「……あんま口悪ィとゴリラも嫁にもらってくれなくなんぞ」

と言いながらページをめくっている。
うん。姐御の意見は正しいアル。
もっと稼げよマダオと言いたくなる光景。

「って、そこのジャングルから来た女に言っとけ、新八」
「いやですよ。殺されたくないですから」

メガネは託された言葉を簡単に放棄した。

ほら。
さらりと交わす新八も私と同じで、繰り返されるそれにもう慣れている。
上司が姉と同じくらいの不機嫌オーラを出していても関係ない。

「じゃあお前だ、神楽。
もちょっと俺の働きぶりを伝えてやれ」
「分かったアル。
銀ちゃんゼンゼン働いてないしお給料くれないのヨ、姐御」

告げ口してやると、オイィィ!という突っ込みが後ろから聞こえた。
もちろん私も新八も、当然姐御だって聞かないふりだ。
だからいつものそれを悪化させているのは自分かもしれないとも思ったが。

「全く、仕方のない人ね。嫁もらう甲斐性もないくせに。
って、そこで腐ってる万年脳内天パ野郎に伝えてくれる?神楽ちゃん」
「あぁ?見る目のない奴ほど金、金って言うんだよまな板女。
ってそこの極悪キャバ嬢に言っとけ、新八」

自分達を介さなくても続くのだから、やっぱりそれは2人の問題で、
大抵は銀ちゃんが悪いと決まっているのだ。
何しろ姐御が黒といえば何色だって黒になる。

もう一度振り向いてみれば、苦々しい顔をした銀ちゃんと、
いい加減にしてくださいよと呆れた顔をする新八がいた。
隣を見ればこちらもうかない顔をした姐御がいる。


ケンカして勝つのは楽しい、というのなら分かるけど、
2人のそれは勝つとか負けるとかもなく、始まるのも終わるのもいつの間にかで。

だから、どうしてそんなにケンカをするんだろう。





「知らないわ。銀さんが悪いのよ。
あまりにも遅いしお酒は飲み過ぎだし」

この前なんて健康診断ひっかかったのよ。
と、姐御は言った。

結局お互い、面と向かって口を利かないまま、姐御に手を引かれて甘味屋にいる。
あんみつを2人で頼んで、姐御の表情はやわらいだのに、
喧嘩の原因を尋ねるとその美しい顔はすぐに曇ってしまった。

「だらしなくて部屋は汚いし、パチンコは止めないし……。
ちょっとくらい人の言うこと聞けってのよ、あの馬鹿男」

すごく嫌そうな顔と、チッという舌打ちまでしてあんみつを口に運ぶ。


そんな姐御が実は銀ちゃんを心配していることも、
銀ちゃんがすごく姐御のことが好きなことも、
私は知っている。
(だってお互い、相手のことばかり話すから)

だからそれほど喧嘩の行く末が心配かと言われれば、そうでもないのだ。
姐御はひとしきり銀ちゃんの悪口を言うので、それを聞いているのはちょっと楽しい。


「……まぁでも確かに……」


その悪口がふととまって、
姐御が自分の食べかけのあんみつを見ながら苦笑した。


「こういうのを食べてると、一緒にくれば良かったと思うわね」

「当たり前だ」


姐御の穏やかな声に、ぼさっとした眠そうな男の声がかぶった。
あれ、と思ううちに、
姐御の隣に白髪頭の侍が、
私の隣にメガネが座る。

「甘いものに銀さんは付き物だろ」
「あ、すいません。あんみつ3つ追加で」

当たり前のように座り、注文をする男2人に、私は姐御と顔を見合わせた。
少しして3つのあんみつが運ばれてきて、銀ちゃんと新八の前に。
そして一つ余ったそれは新八の手で私の前に置かれた。
さすが新八。空気だけは読めるメガネアル。

姐御はその間、あんみつを食べるのを中止していたから、4人の前に4つのあんみつが揃う。
いただきます。
と甘いものを食べるときだけ律儀に手を合わせる銀ちゃんに釣られて、
姐御ももう一度いただきますと手を合わせた。





「で、結局ケンカの原因は何だったの?」

帰り道、新八に問われてさぁと首を傾げた。
先を歩く私と新八の後ろで、銀ちゃんと姐御は黙って歩いている。
けれどちゃんと隣り合って。

「知らない、って」

そう言った姐御はもう銀ちゃんを許しているようだったが、銀ちゃんは謝りもしていない。
だから、何故だろうという私の疑問はそのままなのだ。

「なんで銀ちゃんと姐御は、好きなのに喧嘩するアルか?」

分からないので新八に聞いてみる。
さぁねと、呆れた顔で一度は返事をしたメガネが、
それを認めたくないからなのかとてつもなく顔をしかめながら、

「好きだからじゃない?」

あまりにも投げ遣りに言うものだから、
しばらく、ガキ、と言って馬鹿にした。


/好きだから

end


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