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*おりょうさん視点銀妙




この2人は本当に、と呆れざるをえないのは自分だけではないはずなのに、
どうしてこうも事が運ばないのか不思議に思えてくる。


「だからって私のせいですか」
「お前のせい意外に何があるんだよ」


先程から口論を繰り返している2人は、まるでこちらなど気にしていないかのようだ。
それはそれでありがたい。
いっそこっそり離れてやろうかと思うのだけど。

「違うわよねぇ、おりょう?」
「いやいやいや、お前が悪い。友達だったらビシッと言っちゃってくんない?」

たまにこうして、巻き込まれるから離れて歩けないのが今の状況だ。
ビシッと言ってやりたいことは山ほどあるのだけれど。

「朝起こせって言ったじゃん。おかげで遅刻したっつの」
「起こしました。銀さんが昨日飲んだくれてたのが悪いんじゃないですか」
「俺は昨日は飲みながらお前を待ってたんだろうが」
「頼んでないわよ」

なにあんたら同棲してるんですかと言うような内容。
昨夜は確かに、仕事が終わる少し前に万事屋の旦那が迎えに来て、お妙を送っていった。
待ってる間に水割りでもと勧めたのは自分だが、その前に男はだいぶ眠そうだった。

「他でぐだぐだ飲んでたんでしょ。また吉原ですかイヤらしい」
「んなに飲んでねェよ。だいたいお前が最近シフト多すぎだし遅すぎだ。
どんだけ男から金ぼったくってんだよ極悪キャバ嬢」

他の女がいるところで飲むなとか、
仕事詰めすぎて心配だとか男に近づくなとか、
どうして素直に言えないのよあんたらは。

「銀さんだって最近、夜のお仕事とか多いですよ。
昨日だってお酒なんて飲まないでさっさと帰ればよかったんです。
若くないんだからほどほどにしなさいな」
「お前が稼げ働けって言うんじゃん。金持ちがいいとかふざけんなよ。
新しい冷蔵庫欲しいとか言うんだったらもうちょっと料理の腕磨けって」

つまり昨日だって仕事帰りなのだからさっさと帰って寝ればよかったのにと、
お前のために仕事増やしてるんだと、
言ってしまえばどれだけ甘い言葉になって今のこの関係が進むのか少しは考えなさいよ。


それでいて、仕事以外の日は必ず迎えに来る男と、
男が仕事の日は心配だからだろう足早に帰る女は、
傍から見れば分かりやすいほどなのに。

ああ、じれったい。



「あら銀さん、今日その格好でお仕事行ったんですか?」

ふと気付くと、お妙が万事屋の旦那の着流しを引っ張っていて、
あ、と気付く。

「あ?んだよ。俺のコスチュームに何か不満でも?」
「コスチューム以前に顔も頭も不満だらけよ」
「んだとコラ。頭って中身かパーマか」
「両方です。じゃなくて……
ほつれてるじゃないですか、これ」

お妙が指差したところは確かに糸がほつれていて、
でも、

「みっともない」

と言われればそうかもしれないが言われなければ気付かないところだ。
いいじゃんそんくらいと面倒がる旦那に、
駄目よ繕いますからと罵倒を交えて言う友人。

見ているだけで、馬鹿らしいのは自分だけ?



「お妙」



呼び掛けると、彼女は振り返った。
ていうかあんた、すっかり私の存在忘れてたでしょう。
でもそれも、仕方ないと思える。

「あんたたちの喧嘩に付き合ってらんないわ。私、あっちだから」

そう言って手を振れば、
何よそんな言い方、と文句を言いながら手を振り返す友人に、
素直になれと忠告してやるのはもう止めようか。

離れて歩けば、それでも後ろからは、
口うるさい、だらしない、と小学生みたいな口喧嘩が聞こえてくる。

あんな風になら、将来喧嘩もしてみていいかもしれない。
そう思ったら、今までなかった結婚願望が急に出てきて自分に苦笑した。


/良い迷惑

end


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