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*銀妙他校生パロ
*中3
*…甘?
*親馬鹿注意報



3月も末、いつの間にかマフラーもコートも必要なくなって、桜の蕾は膨らみ始めている。春の気配がすぐそこまで漂っていた。
早朝、妙はこの1年通い慣れた純和風の平屋の前に立っていた。カラカラと玄関の扉を開いて、中の住人に声をかける。

「おはようございます」

「おはよう妙!悪ぃ、ちょっと待っててな」

バタバタと家の中では、毎朝変わらない慌ただしい足音が響いている。

「銀時!校章を忘れておるぞ!」

「晋助、早う食べんと遅れるぜよ!」

相変わらずあの二人は寝坊したらしい。これまた1年間変わらない光景に、クスリと笑みを零す。
暫くして、ドタバタと4つの足音が玄関に近づいてきた。

「妙!待たせてゴメン!」

「貴様らは毎朝そうではないか!謝るなら早く起きんか!」

「痛ぇ!」

「何でだよ!俺は今日は悪くねぇだろ!?」

ゴンという鈍い音と共に桂の拳骨が落とされて、銀時と高杉が痛みに疼くまる。

「俺が言っているのは日頃の行いだ。おはよう、志村さん」

「妙ちゃんおはようぜよ!」

「おはようございます」

二人に挨拶を返して、靴を履き始めた彼らをじっと見つめた。妙の学校の制服であるブレザーとは異なる、学ランを身につけた四人。

学ランのボタンを上まできっちり止めて、さらさらの黒髪は妙でさえ羨ましくなるほど美しい桂。

坂本は癖の強い茶色の髪を、いつもより梳かそうとしたが失敗したようだ。

銀時は、普段の天然パーマに寝癖が加わって普段よりも三割増しで銀髪がぴょこぴょこと跳ねている。

高杉はといえば、シャツがはみ出した状態のままだ。まあ、後で再び桂に拳骨を食らう嵌めになるだろう。

毎朝変わらない、だけど明日からは少し変わる光景。

寂しさと新しい生活への期待が募る日。

そう、今日は………

卒業式。











桜の咲く頃に








通い慣れた道を、5人でたわいもない話をしながら学校へと向かう。前を桂・高杉・坂本が歩き、後ろを銀時と妙が歩いていた。その手はしっかりと恋人繋ぎにされている。
家を出てすぐ、銀時はさりげなく車道側に出て妙の左手を握った。

「相変わらずラブラブじゃのう、おんしらは」

坂本が振り向いてアハハハハと馬鹿みたいに笑うのを拳で黙らせる横で、妙は頬を桜色に染めて俯いていた。可愛い彼女にキスしたいと純粋に思ったが、以前街中でした時三途の川が見えたので、それは諦める。代わりに握った手に少し力を込めた。

「そ、それより今日松陽先生は来られることになったんですか?」

「ああ。何でも校長を笑顔で脅したらしい。本人はお願いしたと言い張っていたがな。それで夕べから大変だったのだ」

「え?どうしてですか?」

不思議そうに首を傾げた妙に、今度は高杉が意地の悪い笑みを浮かべながら先を続けた。

「ククッ、ずっと銀に『明日は絶対行きますからね!』と念を押し続けてな」

「あら、それは大変だわ」

妙がこちらを横目で見てクスリと笑うのに、頬が熱くなるのを感じて銀時は慌てて大声を上げた。

「も、もうその話はいいだろ!」

「そういえば聞いてませんでしたけど、松陽先生はどうして卒業式にこだわっていらっしゃるんです?」

「ふむ、志村さんには話していなかったか。ならば俺が話そう」

「だからその話は止めてぇぇぇ!!!」

完全に銀時をスルーする二人に、銀時の悲鳴に近い叫びが青空に響き渡った。

「あれは、小学校の入学式の時の話だ…」




‡‡‡

「銀時、すみません!銀の入学式、行けそうにないのです」

「おとうさん、これない?」

「うっ……理事長先生にどうしてもとお願いしたのですが…休む事ができなくて!!」

「そっかぁ……」

「銀時ィィィィ!!」

コトリと首を傾け、紅い瞳を悲しそうに歪めて呟いた銀時に、松陽は悲痛な声を上げて銀時を抱きしめた。

松陽が何よりも、誰よりも楽しみにしていた愛息子の入学式。だが、高校教師である松陽は今年、新しい学校への赴任が決まっていた。その新任式が不運にも、入学式と同じ日だったのである。

「小太郎や、晋助のご両親に沢山ビデオと写真を撮るようにお願いしておきましたから!」

松陽自身は、新任式などぶっちぎって息子の勇姿を見に行きたい所だったのだが。そこは一介の社会人として諦めざるを得なかった。そのかわり、桂や高杉の両親に土下座する勢いで頼み込んできたのだ。両家の親達は、松陽の親馬鹿っぷりは嫌という程熟知していたから(幼稚園の行事で既に体験済みである)一も二もなく引き受
けた。

「これから先、銀の出る行事は欠かさず行きます!だから、今回は許して下さい、ね?」

「うん、分かったぁ!おとうさん、やくそくだよ!」

「………何でそんなに可愛いんですかぁぁぁ!!」

笑顔で許してくれた天使の様な息子(by松陽)の優しさと、小指を出してまたも小首を傾げた、その可愛らしさに、感動に打ち震えながらも、「約束」と指切りを交わしたのだった。




‡‡‡

「というような事があってだな…」

「まぁ、可愛い」

銀時の横顔が朱に染まっていくのを横目に見ながら話を聞いていた妙は、ニコニコと微笑んだ。小首を傾げる銀時など今では想像もつかないが、相当な可愛さだったのだろう。

「因みに、そん時はわしらも一緒におったんじゃが、完全に空気と化しとったぜよ」

別に空気になりたかった訳では勿論ないが、あの雰囲気に入って行ける奴がいたら見てみたい。

「それから、先生が銀時の行事関係に出なかったことは一度もねぇんだ」

「そうだったんですか…」

「て、てめぇら余計なこと喋ってんじゃねぇよ!」

「余計ではない、俺達は貴様の幼少の頃の可愛さを志村さんに語っていただけだ」

「なお、悪いわ!」

「あんな可愛いかったのに、何でこんな捻くれちまったんだろうなァ…」

「うるせ−−!」

からかいながらも、銀時を見る目には優しい色が浮かんでいるのだから、彼らもまた兄馬鹿なのだ。如何せんそれに気づく様子はないが。

「ったく、どうせ卒業式なんて言ってもどうせ高校も変わんねぇんだからよ−……」

「そげなこと言いなや。大事な行事やき」

銀時らの通う銀魂学園は中高一貫校であるから、卒業してもそのまま高等部に行くだけだ。勿論メンバーも変わらない。

「おんしら、もう橋ぜよ」

話に夢中になっていた一同は、坂本の声でハッと我に返った。妙の通う明桜女学院と、銀魂学園への道が分かれるのはこの橋からだった。妙が意味ありげな視線を送ると、桂達は曖昧な笑みを浮かべる。

「では、志村さん」

「また後での!」

「じゃ、またな」

「妙、じゃあ後で…って、どうかしたのか?」

妙に学ランの裾を引かれ、桂達に続こうとした銀時は足を止めた。

「銀時君、お話があるの」

「えっ、え!?何?」

「実はね…」

チョイチョイと手招きされ、銀時は妙の口元に耳を寄せた。

「ま、ま、ま」

「ま?」

「マジでかァァァ!!!???」

雄叫びを上げた銀時に、一瞬目を丸くした妙は、次の瞬間ニッコリと微笑んで。

「マジですよ」

そのまま銀時を引き寄せてキスをした。

「っ〜〜〜!!!」

みるみるうちに真っ赤になった顔を隠すように、駆け出した銀時を笑顔のまま妙は見送った。
遠くから喜びの声が聞こえるまであと十秒。





桜の咲く頃に
(同じ場所で会いましょう)

(よっしゃァァァ!!!!!)
(どうしたぜよ?)
(妙が、妙が来年銀魂高校来るって!!)
(!!)
(よかったのう!)

(銀、銀時!!父はここですよ!)
(……)
(…諦めろ)


/桜の咲く頃に

end


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