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▼2人の秘密□

※最後石化後の話含む

 ボンっと爆発音と同時に煙が空高く巻き上がっていく。
 突然の轟音から逃れる術はなく、距離を取っていたにも関わらず耳が一時的に職務放棄した。
 「ーーー!ーー?」
 千空がこっちに向かって何か喋っているのに耳鳴りで全く聞き取れない。
 「なにー!?」
 「ーーー!」
 これは駄目だ。元に戻るまでに暫くかかるだろう。千空も同じように考えたのか、宙に視線を向けて何か思案している。と、すぐさまこちらへ向き直ってきた。
 とんとん、と自分の片耳を軽く叩いて私に伝えるようにゆっくり口を開く。
 ぶ、じ、か。
 一言一句留め置くような口の動きは、流石の私にも分かった。肯定するように何度も頷くと、千空は安心したように眉を少しだけ下げる。
 とりあえず部品を回収した方がいいんじゃないか、高いのもあるし、と伝えたくてパタパタと手を振ってみたところ、何とか理解してくれたようで、未だ煙が若干残る中心地に足を伸ばした。
 その後も伝わったり伝わらなかったりのジェスチャーゲームをして何とか家に帰った頃、漸く耳が元の仕事を思い出したようだ。
 「合図を作るぞ」
 「あいず」
 突然言い放つ千空の言葉をただオウム返ししてしまったが、彼は気にする様子がない。
 「また同じ事が起きないとも限らねえ。別に完璧に会話するってんじゃねえし、必要最低限の単語わかりゃ大丈夫だろ」
 「なるほど。野球のサインみたいな?」
 「あ゙ー、そうだな」
 そう言って紙を取り出した千空の手元を覗き込むと、つらつらと単語を書いている。
 「負傷有り、無事、退避、回収、あと何だ」
 こちらに聞くというよりは自分の脳内に語りかけるような大きさでの呟きを、私は黙って聞いていた。
 先程野球と表現したが、ワード的には軍隊っぽいな、なんてどうでも良いことを考えながら見ていると、千空の脳内整理が終了したらしい。
 「ま、こんなもんだな。複雑にすると名前は覚えらんねえだろうし」
 「よく分かってるね」
 まあ、使う機会が無い方がいいんだろうけど、2人の秘密みたいでテンションの上がった私は、まんまと全て覚えてしまったのだった。

 「おい名前」
 「なに?」
 なぜ今そんな事を思い出したかと言うと、今まさに目の前で爆発が起きたからである。
 このストーンワールドでは久しく見ていなかった規模の爆発に、思わず上がった煙を目で追いかけてしまう。昔と違うのは、辛うじて耳が機能していると言う事だろう。振り向くと、千空が私を見ながら腕を叩いている。
 あれは、安全確認の合図だ。
 返事をするようにこちらも記憶の中の動作をすれば、彼は途端に笑い出した。
 「まだ覚えてやがんのか」
 「千空だって」
 つられて笑う私に、そばにいたクロムが不思議そうに首を傾げる。
 「おうおう、千空。時々それやってるけどよ。何の合図なんだよ」
 名前は知ってんのか、振り向くクロムにどう答えようか逡巡するが、まあ、ここは。
 「えっと、秘密?」
 「なんだそれ、ずりい!」
 わあわあ騒ぐクロムの後ろで、千空は悪戯が成功した子どものように口元を歪めていた。

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