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「名前ちゃん!」
「ゆずりは………?」
随分原始的な服だね。あ、髪も切ったんだ、イメチェン?と言う私の言葉は、何故か抱きしめてくる彼女によって遮られてしまった。
周りを見渡すと、びっくりする程広がる大自然が私を出迎えてくれている。私は学校にいたはずなんだけれど、どうなっているんだ。誰か説明して欲しい。
杠は未だ泣きながら私に抱きついているし、誰か他に、と思って近くにいる人を見ると、号泣している大樹だった。
「待って、なんで2人とも泣いてんの?」
嗚咽を漏らしながら腕で顔を隠す大樹も、私の肩口で静かに震えている杠もこちらの言葉に答える余裕は無さそうだ。
そんなことを考えていると、もう1人の人に目が行く。
「えっ獅子王司?なんで?」
霊長類最強の男がいた。
いやもう何ひとつ理解が出来ない。よく見たら私も大層原始的な服を着ているし、もうなんだこれどっきりか。
「一般人にするドッキリにしては規模でかくないかな?」
ここで、私の疑問をすぐ解決してくれる人がいない事に気がつく。
「あれ、千空は?」
この2人がいるのに千空がいないのはおかしい。もしかしてこのドッキリの仕掛け人なのかもしれない。
途端、私の発言に泣いていた2人が機械のように動きを止めた。
刹那、どうしようも無く嫌な予感が背筋を撫でる。
「千空は、うん…俺が」
「待って司くん。私から説明させて」
いきなり獅子王司が話しかけてきたと思ったら杠が珍しく強い口調で遮ってきた。
漸く私から離れた彼女は、しかし両手で私の肩をしっかりと押さえてくる。
「名前ちゃん、ここは私たちの知ってる時代から3700年後の世界なの」
「…………んん?」
何の冗談かと言い返したかったけれど、杠の真剣な表情を前に口が自然と閉じていく。
「それでね、千空くんは…その…」
明らかに言いづらそうに視線を左右に揺らす彼女に不安が募っていく。
「ごめん、大樹くん、司くん。名前ちゃんと2人で話してもいいかな?」
ちらりと後ろを振り向き、2人に問いかける杠の口調は固い。
「うん…そうだね。構わないよ」
「俺も外そう!何かあったら呼んでくれ!」
片方はとても穏やかに、もう片方は驚くほど元気にこの場を後にした。
未だに状況が飲み込めていない私は、ただ杠の言葉を待つことしか出来ない。
「名前ちゃん、私の目を見てよく聞いて」
「え、あ、うん」
言われた通りにじっと見つめると、水分を含んだ瞳が陽の光をキラキラと反射していた。
「ここはね、千空くんのお墓」
「…………………は?」
私と顔を合わせたまま、杠はゆったりと十字架を模した簡素な棒を指差す。
はか?お墓って何だっけ。待って何で、お墓って、そんな。
「嘘だ」
短く答える私に無言で首を振る彼女は、嘘を吐いているように見えないことなんて、目の前の私が1番分かっている。
なんの前触れもなく側頭部をぶん殴られたような感覚に陥る私の目から、勝手に液体が流れ出してきた。
「どうして…」
「話すと長くなるんだけど…でも、大丈夫。名前ちゃん、私たちは大丈夫」
何が大丈夫なんだろう。そもそも分からないことご多すぎて脳が処理を拒んでいる。だって、千空にはもう会えないと言うことじゃないか。
説明を求めるように未だにこちらの肩を掴んでいる杠を力強く見つめると、少しだけ瞳が周りを気にするように揺れた。そして、掴んでた肩から手を離し、人差し指を口元に持ってきている。
待て、杠がこんな遠回しに伝えてくるなんて今まであっただろうか。
そもそも何で2人しかいないのに周りを気にするような素振りを見せるんだ。
話を聞かれるとまずい事でもある?
杠の言葉と行動である1つの希望が見出せた。
「杠、『私たち』は大丈夫なんだね?」
少し声を落として問い掛ければ、彼女は真剣に頷いた。
そっか、それならいい。
「分かった。後は、杠と大樹に任せる」
「うん。お墓参りは毎日来るからね」
私たち、つまり千空も大丈夫という事だ。なぜこんな隠れたやりとりをしなくてはいけないんだだとか、2人が千空と別れて行動している理由だとかはとりあえず置いておこう。
なんだか、とんでもない所に来てしまったようだ。
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