▼君はともだち□
※大樹←名前←千空 報われない話
私の好きな人には好きな人がいる。
言葉にすれば一気に3流ドラマのストーリーのようだけれど、実際に渦中に身を置いている者としてはなんともやるせ無い気持ちでいっぱいだ。
しかもその相手が見た目も中身も完璧美少女なもんで、私に万に一つも勝ち目なんてない。出来るのはこの恋心に分厚い蓋を被せて、意識の奥深くに沈めるだけだ。
「大樹くん」
今日も明日も明後日も、私が貴方の大事な友達であるために。
「で、名前、テメーはいつまでそこでうじうじやってんだ」
「うじうじなんてしてない」
化学室の隅っこで地道な作業を1人で行う私に、だるそうな声が降ってきた。
反論するように顔を上げると、呆れたようにため息を吐いている千空と目が合う。
「もう全員帰ったぞ」
「え?うそ!」
信じられない言葉に急いで周りを見渡したら本当に誰もいなかった。
何も考えないように作業へと意識をのめり込ませ過ぎていたのか、誰1人として帰ったのを覚えていない。
「ごめん、千空帰れないよね」
鍵は部長が管理する事になっているので、彼はいつも最後に施錠しなくてはいけないのだ。
「まあ俺もやることあったから別にいいけどよ」
全く気にしていないような口調で言うものだから、こちらはなるほどと頷くしかない。千空の様な合理的男子が変な嘘吐く理由もないし、本当に作業があったんだろう。
「で?」
「で、とは?」
私が作った部品たちを回収しながら千空はこちらをちらりと一瞥する。
「解決したのか、うじうじ」
「だから…うじうじはしてな、くもないかも」
結局私はこの恋心を埋めきれず、今日も2人が仲良くお話ししてるところを見て勝手に沈んでいるのだ。
「好きな人に好きな人がいてさ、その2人がめちゃくちゃお似合いで、幸せになって欲しいって気持ちはもちろんあるんだよね」
「あ゙?………俺に恋バナとか頭打ったか?」
どう見ても向いてねえ、と即会話をぶった斬る千空にいっそ清々しい気さえする。
「いや、うん、何でだろ。急に話したくなっちゃった…ごめん」
するすると漏れ出そうになった気持ちにストップをかけて、へらりと笑う。
「別に謝る必要はねーだろ」
すっかり片付け終わった化学室を後にしながら、千空は続けた。
「さっさと気持ち伝えちまって終わらせた方が早えし合理的だろうが」
「千空らしい」
すっかり日が傾いた通学路を流れで2人、ゆっくり歩いていく。
「まあ、恋愛事はとにかく非合理的なもんだからな。俺の管轄外だ」
「でも千空に言って少し楽になった気がする。ありがと」
2人分の足音が車の排気音に隠されて、会話が途切れた。
ふと隣に目を向けると、夕焼けが千空の顔をオレンジ色に染め上げている。少しだけ細める目元は眩しいだけのはずなのに、何故か苦しそうに見えた。
「好きになっちゃったのは仕方ないよね」
そうだな、と返された小さな言葉と逸らされた視線に、私はなんだか泣きそうになってしまった。
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