▼1番乗りは私□
深い海の底から引き上げられるような感覚で、名前は目を覚ます。
カーテンから薄っすら漏れる日差しが、穏やかな朝の訪れを知らせていた。
今、何時だろう。
昨夜枕元に置いた携帯を取ろうと手を伸ばしたが、予想した硬さの物は名前の手には当たらなかった。
少し頭を起こして周りを見ても目的の物が見当たらない。はて、ベッドの下にでも落としたかと身を乗り出した所で、自分以外の声が部屋に響く。
「起きたか」
「音之進、くん」
寝起きの掠れた声で彼の名前を呼ぶと、少しだけ口元を緩めておはよう、と声をかけられた。
「おはよ」
そういえば昨日から泊まりに来ていたのだった。未だぼやける頭に手を当てていると、音之進が近づいてくる。
「やる」
短い言葉と共に小さな箱が差し出されたので、名前の手のひらに置いてもらった。両手に納まる大きさのそれに首を傾げる。
「何これ?」
「プレゼントだ」
そうだ、私今日誕生日だ。
昨日散々彼にアピールしていたというのに、起きたばかりで日付の感覚が曖昧になっていた。
「誕生日おめでとう」
柔らかい言葉と共にゆっくりと頭を撫でられて、頬に熱がこもる。
「ありがとう。…開けてもいい?」
「ああ」
そろりそろりとリボンを解き、丁寧にシールを剥がして箱を開けた。
中には、星がモチーフになっている綺麗なネックレスが輝いている。所々付いている青い石に既視感を覚えた。
「以前欲しいと言っていただろう?」
確かに、2人で出かけた時にショーケースに入っていたこれを見つけて、欲しいと言った記憶がある。あるが、あれは数ヶ月前だった気がする。
「よく覚えてたね」
「当たり前だ」
ふふん、と満足げに笑う音之進に名前も笑顔を向ける。
「ありがとう!」
早速着けてみようと手を動かす自分を急かすような視線が突き刺さる。ふと、携帯の存在を思い出して彼に問いかけた。
「そういえば私の携帯知らない?」
名前の言葉にさっと手を動かす音之進くんの指先を追うと、デスクに上がっている携帯があった。
「なぜ…」
耳を澄ましてみると、通知音がひっきりなしに鳴っているのが聞こえる。おそらくお祝いメッセージだろう。
「一番最初に祝うのは、恋人の私だ」
なんだ、それ。
私がいつも起きてすぐ携帯を確認するのを知ってるから、他の人からのお祝いを見ないように遠くに置いたのか。
彼の可愛らしい行動に、ネックレスを片手に持ったまま抱きしめるために両手を広げることになってしまった。
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