小説 | ナノ



▼ジューンブライド希望□

 どこまでも続く青空と舞い上がる花びらの中を歩く友人が余りにも幸せそうに笑うので、私は思わず涙を零してしまった。

 良い結婚式だった。名前は携帯の画像を辿りながら昨日の式を思い出す。
 特に、この2人が笑顔で写っているものなんか最高である。
 幼い頃からの友人の式に思いを馳せていると、コーヒーを飲んでいる鯉登が画面を覗き込んできた。
 「何の写真だ?」
 「この間の結婚式だよ」
 ほら、と彼の手に携帯を差し出すと勝手に画面を変えていく。元々見せるために渡したんだから好きにしてくれて構わない。
 「これはみんなで撮ったやつ」
 手を止めて見ていた画像を指差す。
 「綺麗だよね」
 豪華なドレスもそうだが、彼女の笑顔が美しい。幸せ真っ只中という雰囲気が前面に押し出されていてとても良いものだった。
 「そうだな」
 鯉登は一言肯定したかと思うと、また画面を変えてしまう。その速度でちゃんと見ているのか甚だ疑問だが、枚数がかなりあるため見終わるまでまだかかるだろう。
 名前は空になった自分のカップを持って台所に向かった。
 「これ」
 追加のコーヒーを淹れて戻ってきたら、鯉登が画面を指差してこちらに顔を向けている。
 「送ってくれ」
 「え、何、そんなに気に入った?」
 友人が綺麗なのは全面に認めるが、彼が画像を欲しがるなんて、少し妬けてしまう。
 ソファに腰掛け画面を見ると、待ち合わせ時に撮られた自分の写真だった。
 「….いや、あの」
 「綺麗だ」
 まさかと思うが、あの素早い画像転換は私を探すためだったりするんだろうか。
 目を細めて満足そうに笑う鯉登に聞く勇気は無く、早くしろとでも言わんばかりに押し付けられる携帯を、黙って受け取ることしか出来なかった。

 「お前はどっちがいい?」
 画像を彼の携帯へ転送した後、ポツリと呟かれる。
 「何が?」
 「洋装と和装どちらがいいかと聞いている」
 どちらも似合うと思うが、なんて続いた言葉の意味を理解するまで、あともう少し。

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