小説 | ナノ



▼可愛い彼□

 『迎えに来てやってくれないか』
 今日は飲み会だから先に寝ていてくれ、と言っていたのは誰だったか。
 鯉登の部下であり名前の友人の月島くんから来た連絡に、大きなため息を吐く。
 『了解』
 髪の毛を縛り直し、軽く化粧をしてから車の鍵を鞄に入れた。

 「悪いな」
 「こっちこそごめんね」
 月島にぐったりともたれ掛かる彼を連れて帰ろうと名前が手を広げると、体に大きな衝撃が走る。
 「ぐふっ…」
 喉の奥から絞り出すような声が出た。地面に倒れ込まないように必死に足に力を入れる。
 何故か、鯉登が勢いよく突撃してきた。
 「むぜとがおっど」
 ぎゅうぎゅうと抱きしめられて息が苦しい。名前は無理矢理肩口から顔を出して、月島くんに話しかけた。
 「どれだけ飲んだの?」
 「…覚えてないくらいだな」
 鯉登はお酒に強い筈だが、許容量を超えるくらい飲んだなんて珍しい。
 未だに自分を抱きしめる彼の背中を、離れてという意味を込めて軽く叩くが全く効果がなかった。
 そして後ろからぞろぞろ出てきているのは今日の飲み会参加者だろうか、見覚えのある方達が沢山いる。
 この状態で挨拶なんか出来ないと思ったところで、鯉登が急に離れて名前の肩を掴んだ。
 そのまま前に押されて皆さんとご対面することになる。
 ひとまず会釈すると、頭上から上機嫌な彼の声が聞こえた。
 「おいん嫁はほんのこてむぜじゃろ!」
 そう言いながら今度は後ろから抱きしめられて、恥ずかしさで顔が上げられない。周りの生暖かい視線を全身に浴びている気がする。
 誰か、この酔っ払いを止めてくれ。

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