今日も昨日もその前も俺はずっとイライライライラ。原因は同じクラスの名前。何かと俺に突っかかってきてはいつものように口喧嘩が始まる。このような光景はもうクラスでは日常茶飯事。最初は俺たちを止める者もいたが、今ではまた始まったかという冷やかししか飛んで来ない。まあ毎日のようやってればそうなるのも無理はないだろう。あいつもよく毎日懲りもせず突っかかって来るよなあ、と思わず溜め息が出た。


「何ですか、人の顔を見るなり溜め息なんかつきやがって。私に何かご不満ですか、こら」
「ばーか、お前はご不満だらけだよ。女として最悪なくらい」
「うっわ、ムカつく。作だって被害妄想激しいくせに!妄想でどうせやらしいことでも考えてんだろ、このスケベ!男として最低だわ」
「んだと、この野郎。お前なんか貧相な体しやがって、そのまな板並みの胸どうにかしろ」
「うっせ、余計なお世話だ!今に見てろよ!Dくらいに成長してお前をぎゃふんと言わせてやるから!」
「はっ、何百年後の話だよそれ」
「む、むかつく!」


作のばーか!ハゲろ!そんな捨て台詞を吐きながら名前は教室を飛び出す。これがいつもの俺の日常。すっげーくだらないかもしれないけど、これが意外と楽しかったりする。ってか、あいつと口喧嘩してる間にまた左門と三之助が居なくなったじゃねぇか畜生!あーまた探しに行かねぇと…。これもまた日常だったりする。次の日だ、朝学校に来たらいつもある名前の姿が無かった。いつもならもうとっくに教室に居て「今日も変な顔」とか真っ先に突っかかってくるのに、その日は一日あいつが学校来ることは無かった。次の日もそのまた次の日も名前は学校には来ない、いい加減いやな予感がした俺は担任に名前のことを問い詰めた。そして次に名前に会ったのは病院だった。酸素マスクを付け、腕や頭に包帯が巻かれた名前の姿はとても痛々しかった。この間までは全然元気だったのに、一体どうして…。


「三日前、帰宅途中だった彼女と前方不注意のトラックが衝突したんだ。すぐに病院に搬送されたんだが、オペは成功したものの意識は戻らず、昨日から様態が急変。このまま死ぬかもしれない」


先生にそう告げられ、俺はショックでその場にへなへなと座り込んだ。そんな、どうして、どうして名前が死にそうにならなきゃいけないんだ。トラックがちゃんと前を見てれば良かったんじゃないのか?人の命を奪うような真似をするならトラックなんか乗るんじゃねぇ。何が交通ルールだ、守らなきゃ結局はただの長ったらい文章じゃねぇか。あぁ、畜生、このこみ上げてくる怒り、どうすりゃいいんだよ。そんなやり場のない怒りに耐えてると突如無機質な機械音が悲鳴を上げた。びくっ、音に驚いた俺は立ち上がって硝子越しにある病室を覗いた。それは名前の心臓が弱り始めていた音だった。すぐに医師がきて心臓を動かそうと頑張ったが、心臓は弱くなる一方。諦めた医師たちに呼ばれ、家族が病室へと入る。俺も病室の中へと招かれた。名前の目の前まで行くと包帯が巻かれた白い手を取り俺はそれを強く握った。ぴくっ、微かにだが名前の手が動く。声をかければゆっくりと名前は目を開けた。そして俺を見るなり嫌そうな顔をする。何だよ、最後の最後でその顔は。


「な、んで…作が手、握って、んの」
「今ならお前に余裕で腕相撲勝てそうだったから」
「な、にそ、れ」
「それよりお前、Dカップルになって俺をぎゃふんて言わせるんじゃなかったのか?」
「そうだ、っけ」
「このまま死ぬつもりかよ」
「ねぇ、さ、く」
「何だ」
「い、つも口げん、かばっか、して、たけどさ、わた、し作のこ、ときら、いじゃなかっ、たよ」
「あぁ、俺もだ」
「さく、す、き」
「んなこたぁ、とっくに知ってら」


俺の言葉を聞くと名前は嬉しそうに笑って目を閉じた。ピーっ、無機質な機械音と家族の泣き叫ぶ声が病室に響く。自然に俺の頬にも涙が伝った。全く、最後の最後まで俺ら口喧嘩ばっかりだな。でも、これが一番俺ららしい最後かもしれないな。
















人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -