僕には名前という好きな子が居た。けど名前が好きなのは孫兵。僕と孫兵は仲が良いから名前は毎日のように僕に恋愛相談を持ちかける。正直相談になんか乗りたくはなかった、むしろフラれて欲しいだなんて考えてるくらいだ。普通なら好きな子の幸せを願うのだろうけど、僕には無理な話だ。僕はそこまでお人好しにはなれない。けどだからと言って相談を断ることも出来ない、僕は弱い人間なんだ。うんうんと名前の話を聞いてる僕の内側ではこんなに苦しんでいるのに名前は気付きもせずに伊賀崎くんがね、伊賀崎くんがね、と続ける。嫌だ嫌だ嫌だ、聞きたくない、孫兵じゃなくて僕を見てよ、そんな心の声なんて名前には届かない。


「あ、そろそろ委員会の時間だ!じゃあ私行くね、聞いてくれてありがとう数馬」
「どういたしまして」


名前は僕に手を振りながら教室を出て行く。僕もそんな名前に手を振り返す。姿が見えなくなれば僕はそのまま長い長い溜め息を吐きながら机へと崩れた。「僕の弱虫」ポツリ、誰もいない教室に呟いてみた。勿論返事など返ってくるはずもなく、なんだか馬鹿らしくなった僕は大人しく委員会に向かった。今日はトイレットペーパーと石鹸の補充作業。二人一組で各トイレと水道を回っていた。ちなみに僕のペアは善法寺先輩。世間話をしながら特別校舎の補充に向う途中だった、ふと、中庭に人影があることに気付きよく見ればその人物は孫兵と名前だった。なんで二人が中庭なんかに…。


「わ、私…その、ずっと前から伊賀崎くんが好きだったの、だ、だから、付き合って、欲しいです…」


一瞬耳を疑った。だって告白するなんて聞いてなかったから。動揺する僕に気付いた善法寺先輩が数馬?と心配そうに名前を呼ぶ。だが、今はそんな言葉さえ耳に入らない。僕は孫兵の答えにただただ耳を傾けていた。孫兵は確かにモテる、けど今まで全ての告白を断っていることを僕は知ってる。だから、絶対にオーケーするわけがない。不安になる胸に言い聞かせるように僕はそう強く願った。


「いいよ、僕も、ずっと苗字さんのこと、気になってたから…」


ガシャン、持っていた石鹸箱が僕の腕から崩れ落ちた。
















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