一週間前。両親に一緒に暮らそうと言われた。ずっと待ち望んできた事なのに何故か素直に喜べない自分が居た。死んだと言われた両親が生きてくれていたのは本当に嬉しい、けれど一緒に暮らすとなると私は忍術学園を止めなければいけなくなる。私にとってそれは望ましくなかったのだ。それに、私を迎え入れてくれた学園長にも申し訳がない。だけど、


「……はい」


私は一緒に暮らす事を了承した。今まで一緒に居れなかった分、両親の傍に居てやる事が最優先だと考えたからだ。学園に帰ってからその事を学園長にお話しすると学園長は静かに頷いて「自分が決めた道ならその道を進んでいきなさい」と言ってくれた。その言葉に涙が出そうになりながらもぐっと堪えた。
それから一週間が経つと荷物も大分纏まって明日にでも出ていける状態になった。しばらく残りの散らかってる荷物も纏めていると突然部屋に誰かがやって来た。


「何これ、模様替えか何か?」


散らかった部屋を見て言うのは同級生の兵助だった。兵助は私の片思いの相手で何でも話せる仲にあった。だがそれは恋愛を抜けばの話、私の想いは未だ伝えられないままでいる。


「あ、兵助。何してんの?」
「うん、それはこっちの台詞だから。何なのこれは?」
「何って、荷造り」
「あーなるほど荷造りか、って何でそんな事してんだよ。どこか旅行にでも行く気かお前は」
「旅行じゃないよ。私ね、忍術学園を出るの」


そう打ち明けたら兵助はえ、と声を漏らしながら驚いて目を見開いた。返しに来たはずの本が兵助の心情を表すかのように床に落ちる。兵助は悟られないように平常心を保ってるみたいだけど長年一緒に居る私には全てお見通しだ。私は全てを兵助に打ち明けた。作り笑いを浮かべて、兵助にいらぬ心配をさせないように。


「良かったじゃないか願いが叶って」
「えへへ、ありがとう」
「一杯親孝行してやれよ」
「もちろん!」


本当は兵助と別れたくなんかない。まだ学園で皆と一緒に居たい。けどもう決まってしまったんだ。今更我が儘なんて言えない。残りたい気持ちを殺して私はまた笑顔を作る。


「ねぇ、兵助」
「何んだ?」
「私この五年間皆と居れて楽しかった」
「…あぁ」
「今までありがとう、兵助」
「俺の方こそありがとうな」
「えへへ、それじゃあ私学園長に挨拶しに行かなきゃいけないから」
「あっ、この本はどうする?」
「その本は兵助にあげるよ私にはもう必要無いし、ね」


じゃあ、と言ってそのまま早足で部屋を出て行った。襖を閉めると私はその場にしゃがみこんで中に居る兵助に聞こえないように声を押し殺してボロボロと涙を零した。これでよかったんだ、自分にそう言い聞かせる度に涙が溢れた。例え想いが伝わらなくともこの恋は忘れる事のない思い出となるだろう。この五年間兵助が大好きでした。ポツリ、心の中で呟いた。


荷造り


090916.
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