「何これ、模様替えか何か?」


名前の部屋に借りてた本を返しに来てみたら部屋はすごい有り様だった。教科書や資料、着物に武器の数々…とにかく色んな物が床に散らかってる。一体どうしたというんだ。


「あ、兵助。何してんの?」
「うん、それはこっちの台詞だから。何なのこれは」
「何って荷造り」
「あーなるほど荷造りね、って何でそんな事してんだよ。どこか旅行にでも行く気かお前は」
「旅行じゃないよ。私ね、忍術学園を出るの」
「え、」


思わず抱えていた本を床に落としてしまった。けど今は本なんかに構っている余裕はない。平常心を保つので精一杯だ。


「っ、どうして急に」
「兵助にも前話したと思うんだけど…私の親が死んだって話」
「そういえば聞いたな」
「けど本当は生きてたんだ。学園長の知り合いに頼んでずっと探して貰ってたらついに見つけたって、一月前に知らせてくれてさ。それでつい一週間前に会って来たの」


そしたら一緒に暮らそうって言ってくれてさ、なんて名前は嬉しそうに笑った。

…なんだよそれ。
嬉しそうな名前とは反対に俺は悲しかった。だって学園を出て行くって事はもうここには帰ってこないって事だろ?もう会えないって事になるじゃないか。そんなの嫌に決まってる。


「良かったじゃないか願いが叶って」
「えへへ、ありがとう」
「一杯親孝行してやれよ」
「もちろん!」


素直に行かないでなんて言えなくて、名前の笑顔を見る度にどんどん胸が苦しくなって、けど顔は優しい笑みを作る。そうじゃないと名前が悲しむと思ったから。


「ねぇ、兵助」
「何んだ?」
「私この五年間皆と居れて楽しかった」
「…あぁ」
「今までありがとう、兵助」
「俺の方こそありがとうな」
「えへへ、それじゃあ私学園長に挨拶しに行かなきゃいけないから」
「あっ、この本はどうする?」
「その本は兵助にあげるよ。私にはもう必要無いし、ね」


じゃあ、と言ってそのまま早足で名前は部屋を出て行った。独り取り残された俺の目にはふと涙が浮かんでいた。拭っても拭っても出てくる涙を諦めてそのままにしたら零れて頬を伝った。俺はそのままさっきまで名前が作っていた荷物に近づいて一言呟く。


「この五年間、ずっと名前が好きでした」


この恋心、名前に伝わらずともせめて見えない荷物として持って行って下さい。



荷作り


090725.
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