学園が静まり返る夜更け。ふと厠に行きたくなって目が覚めた俺は温かい布団から渋々と出て厠へと足を運ぶ。季節は冬。凍てつくような寒さに耐えながら用を足し、今一度温もりの中で眠りにつくため部屋に戻る。寒さのせいで長く感じる廊下がとても憎い。


「あ、きり丸」
「名前…?」


廊下の先で俺を呼ぶのは同じ六年の名前だった。半年前に病が見つかり、家族の居ないアイツは今ではくのたまの長屋で寝たきりのはずだ。どうして忍たまの長屋なんかに居るんだろう…。


「どうしたんだよ、こんなとこに居るのが見つかったら大変だぞ」
「うん、分かってる。でも今日は星が綺麗だからこっちの長屋の方がよく見えるかなーって思って」


へらり、力ない笑顔で名前は笑う。そんな顔で言われちゃ止めるにも止められねーよなあ。仕方なく俺も名前の隣に腰を下ろす。


「いいの?部屋に戻らなくて」
「俺はそこまで薄情者じゃないさ」
「でもお金に関しては薄情だよ」
「お金は別」
「ふふっ、そうだね」


今は普通に笑っている名前だが、横から見た姿は病のせいかペラペラの紙のように痩せ細ってしまって、昔の元気な名前の面影は残っていない。それは病の酷さを物語っていて、自分の無力さを叩きつけられたようだ。


「きり丸」
「な、何?」
「私はいつまでこの星空を見ていられると思う?」
「え…」


思いがけない問いかけに言葉が出ない。名前の病は未だ治療法が分からないという不治の病だと聞いた。常に死と隣り合わせの状況の中、ひたすら弱り続けながらも生きる名前はすごく強い人間だと思う。だが、人並みの寿命があるわけじゃないんだ。この星空を見れなくなる日もきっともう近いはず。なら俺は名前に何が出来るだろう、考えても答えは導き出せない。


「人はね、死んだら星になれるんだって」
「…」
「私のお父さんもお母さんもきっと星になってこの空のどこかに居る、だから私も死んだら星になるの」
「そんなこと、言うなよ…」
「ごめんなさい、だけど希望を捨てたわけじゃないの。私はまだ生きる、この星空をまだ見ていたい、だからそんな泣きそうな顔をしないできり丸」


不意に添えられた名前の手がとても温かく感じる。そんな事されたら余計泣きたくなるよ。


「また今度、二人で星空見ような」
「うん」


俺は名前にそう言って添えられた手を握った。それが俺に出来る精一杯だったから。その翌日、名前はこの世を去った。あの日から生きてる事がほとんど奇跡だった事を医者から告げられ、昨日の名前は無理をして星空を見に来たんだと知った。最後の最後に星を見るだなんてホントおかしなヤツだ。もう約束は果たせなくなっちまったけど、また来世でお前と会ったら果たしてもらうからそん時まで約束忘れんなよ。そう名前の墓の前に広がる星空に告げた。


星空

(なぁ、お前も星になれたかな)


091215.
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