私は宗教というものをよく知らない。だけれども、直線鬼を見ていると、教祖というのが彼で、彼を盲信する女子集団というのが教徒なのだろうか、と思うことがよくある。
 今日も今日とて直線鬼は絶好調。十一月十一日という呪われた日に、彼は女子たちからの求愛を受け続けていた。

「新開くーん、ポッキーゲームしようよ」
「あっずるーい、私もしたい!」

 冗談げにポッキーを口に咥える女子集団。それらに囲まれる直線鬼は、相も変わらずへらへらと笑い、何も発さない。一体この中の何人が、本気でポッキーを咥えているのだろうか。カオスともとれるこの状況に、部外者である私は吹き出す寸前だった。

 が、今思うと私は笑っている場合では無かったのかもしれない。



 無言で読書をする私。横にいる直線鬼。夕焼け。物言わぬ窓。扉の硝子から見える延々と続く廊下。
 静寂。ちょっと冷たい空気。の中に混じる甘さ。
 と、直線鬼が咥えるポッキー。

「……クラスの女の子からもらったんですか?」

 と、自分で言ったところで私は吹いた。

「じ、自前だよ……ナマエとポッキーゲームしたくて……」

 吹いた私を不思議そうに見ながら、咥えていたポッキーを手に持つ直線鬼。面白い、面白すぎる。

「だってあの状況、面白すぎましたよ」

 まるで蛇に睨まれた蛙。しかも蛇の数が多すぎて。

「当事者じゃないからそんなこと言えるんだよ……」

 と、頭を抱える直線鬼。ふふ、面白い。……でも少しからかいすぎただろうか。ポッキー片手に落ち込む直線鬼を見たら余計笑いがこみ上げてきた。
 私は椅子から少しだけ腰を浮かせると、俯く新開さんに顔を近づける。そして、産まれたての兎が必死に母親を探るように、頬を探すと、



 直線鬼の丸くなった目が私を見る。私はちょっぴり恥ずかしくなって、彼から目線を外し、椅子に座った。
 暫く無言の私達。烏の鳴き声。羽ばたく音。図書館中が紅潮していた。

「……ポッキーゲーム、しよう」
「いやです」

 何故、と直線鬼に責め立てられたけれども、嫌なものは嫌なのだ。まだキスなんて、自分からできるわけがない。私はこう見えて、というか見ての通りの恥ずかしがり屋なのだから。


(右の頬があつい)





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テーマ「人外ファンタジー」
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