バレンタインなんて嫌いやった。どうせもらえるはずあらへんかったし、そんなことより浮足立った空気が大嫌いやった。フジュンイセイコーユーなんて言うつもりあらへんけど、とにかくひたすらキモいこのイベントがはよ終わらんかって祈っとったわ。
 けども、なんでやろな。ボクもアホやわ。そないに思ってンのに、来てって言われてのこのここんなとこ来るなんてな。
 ボクの目の前に現れたのは、同じクラスのナマエちゃんや。番号順のせいか日直がたまぁに一緒になったりだとか、委員会なんかがたまたま一緒になったりだとかして、なんだかんだクラスで一番喋っとる子かもしれん。……偶然やよ。全部偶然や。

「ナマエさん」
「……え、っと」
「何?」

 ボクが彼女の顔を覗き込むと、彼女は真っ赤な顔をして俯いた。なんや、ナマエちゃんの周りの空気も甘ったるくて、変やわ。……不思議とキモいとは思わんけど。寧ろなんかくすぐったいわ。なんでやろ。

「こ、これ」

 そう言ってボクに差し出してきたその箱は、ご丁寧にラッピングされとって凄く綺麗だったわ。こんな大層なモン、ボクがもらってええんかって思うくらいに。……なんか、手震えとるし、本当はボクにくれンの躊躇してるんやないのって思った。

「なんや、これ」
「チョ、チョコレート……」

 もろてええん? と訊くと、彼女は顔もあげずにこくりと頷いてくれた。小動物に触れるみたいに優しくそれを受け取る。なんだかボクが持ったのを見ると、箱がめっちゃ小さく見えるわ。ナマエちゃんの手、ボクよりもずっと小さいんやろか。

「……おおきに」
「気にせんといて。捨ててもええから」
「捨てるなんてせえへんよ、なんでや」
「あ、翔くん、こういうの嫌かと思って」

 でもどないしても渡したくて、キモかったらゴメンな、と自嘲気味に笑う彼女を見て、ボクはふと黄色を思い出した。

「……キモくないで」
「えっ」
「お返しするわ。ホワイトデーとかいう日に」

 ホンマおおきに。とだけ言うと、ボクはくるりと踵を返して、駐輪場に向かって歩き出した。ナマエちゃんがずっとボクの背中を見ているのが、なんとなしにわかった。
 本当はボク、心臓が口から出そうなほど緊張してて、顔がニヤけそうなくらい嬉しかったんよ。だから、ナマエちゃんから背中を向けた瞬間のボクは、きっとニヤけてしもうたんやろなと思う。


(FIRST LOVE CHOCOLATE)





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -