今日、私は彼に

「新開さん、ダイエットしましょう。」

 ダイエット宣言をした。

「嫌だ」

 部室で今日も今日とてエナジーバーを食べる彼に猫背で拒否される。そんな新開さんもかわいいよと思いつつ、危険な食べ物を食べる彼をのうのうと見ているわけにもいかないわけで。
 新開さんのエナジーバー大好きっぷりの影響か、見かけたときに私も思わず衝動買いしてしまった。確かに美味しい。甘党な私には持って来いのお菓子だったけれども、やはりカロリー面が気になるところ。運動で相殺されれば問題ないだろうが、しかし、だからと言って食べまくってもいいわけではない。

「部活前だしいいじゃないか」
「あのですねぇ……いくら部活の前だからって三本も四本も食べていいものじゃないんです!」

 そう。新開さんはとにかくむしゃむしゃと、まるでおやつのようにこれを食べてしまうのだ。小学生か、っていうくらいの過食っぷりに私もハラハラしているわけだ。

「ニキビできちゃいますよ!」
「今まで出来なかったし大丈夫だって」
「おデブになっちゃいますよ!」
「運動してるし大丈夫」

 ……それもそうか。いやいやいや! だめ。いつもそうやって新開さんの口車に乗せられて納得しちゃうんだから。ここは心を鬼にしなければ。……箱根の鬼に敵うのかって自信無くなるけど。

「だめですよ、これからは部活前に一本、部活中に二本で我慢しましょうね」
「……」
「そんな悲しそうな顔してもだめです」
「バキューン」
「そんなことしてもダメです」

 ……とは言ったものの。なんだか可哀想なのは事実だ。一方的にダメダメと言うのはちょっと気が引ける。なんて思っていたら。

「じゃあ」

 すくっと立ち上がる新開さん。相変わらずのたれ目で、一見草食系なイメージの彼が、箱根の鬼と呼ばれるのがわかった気がした。
 いきなり顎を持ち上げられたかと思うと、彼の顔が一気に近づいた。私の目の前にある彼の表情がどこか猟奇的で、私は怖くなって。思わず彼を突き飛ばす。

「な……」
「あっ、ごめんなさい! っていうか新開さんいきなり何するんですか!?」

 彼は頭を撫でながら起き上がると、

「いや、エナジーバー制限されたらナマエから甘いもの補給するしかないなと思ってね……」
「な、なーにクサイこと言ってるんですか! そんなのだめですよ!」
「じゃあダイエットもできないな」

 そう言いながら早速部室に入って二個目のエナジーバーを口に含み始める新開さん。……中々彼がダイエット宣言をする日は来そうにないです。


(ダイエット宣言)





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