純粋破壊 | ナノ




まだ昼と呼べる時間帯だというのに、太陽が曖昧で空は真白い。かと言って暗い訳でもない、その仄かな明るさの中で臨也は床の上で横たわる男をただ見つめた。

死んではいない。薄いシャツの下の胸が上下している。まだこの怪物からは二酸化炭素が排出されているのだ。
ギシ、とその胸板に膝を乗せ、金髪に縁取られた顔を覗き込む。かちあう緋と茶。

「気分はどう?」

細められる緋に、茶は鋭く憎悪の色を向ける。開かれる唇から吐き出される、呻き。

「…、てめぇ、何のつもりだ」
「ん?俺はただ、君に筋肉弛緩剤を打っただけだよ?」
「…っ!!」

薄い唇が噛み締められ、けれどそれすらも力が入らない。それでも力を込めれば、じわり。血の味が滲んだ。

「げ、なんだまだ普通レベルか。三倍くらいの量を投与したのに、ほんと、化け物だよねシズちゃんは」
「…黙れ」
「ははは!!…憐れだね、惨めだ、まるで人間みたいに。いや、人形かな?」
「黙りやがれって、何度言わせんだ…!」
「いっそ人形だったら良かったのに。喋んないし動かないし、壊せるし」

まっすぐに、自分を見据える深い色の眼差し。一寸の混濁もなく、ただ、純粋。

(だから、シズちゃんは、嫌いだ)

何時だって、余りにもまっすぐに濁りなく自分を見る。
迷いも余裕もない眼で。
だから、


まるで、断罪されているかのように感じる。


お前は卑怯だ、姑息だ、その眼がそう糾弾している。自分でもとっくに理解している罪状を並べ立て、購え償えと叫ぶ。
壊れてしまえと、叫ぶ。

「、壊れちまえばいいのに。」
「俺が?」
「てめぇの死に顔を確認したら、俺も壊れればいい」
「心中みたいだね」
「全然違ぇよ」

叫ぶのを堪えるように、血の滲む唇を更に噛む、静雄。

黙っていても動かなくても、彼は何時だって叫んでいる。それは、彼が彼自身に向けた叫び声なのだろう。矛盾だ無力だと、壊れてしまえと、自身に向けて。
そしてそれが臨也にすらも聴こえるのは、それ程までに大声で彼が叫んでいるからだ。

『壊れてしまえ』!!

同じ場所に立てば、聴こえてしまう。悲痛な、純粋な、悲鳴が。

「残念、」
静雄の唇に貪るようにキスをする。血の味が、した。甘くなどない。
「俺が君を壊す方が、先。」
金髪を指で掬い上げて、微かな煙草の薫りを感じる。

「ずっと誰かに、壊して欲しかったんでしょ?」


愛おしむように、慈しむように、救ってあげるから。



fin.





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -