可愛らしい殺意だこと | ナノ
「シズちゃんみーっけ」
「…い、ざや」
静かで真っ暗な公園。
月明かりの下、ベンチで膝を抱えて座っていた彼の隣に腰掛ける。
慣れたものだ、つい最近まで視界に入るだけで殺意を剥き出しにしていたこの男が、今では体が密接していても睨みの一つも寄越さないなんて。
「もう、心配したんだよ」
「ふーん…」
「シズちゃんが誰かを殺してないか」
びくり、と肩が揺れる。
「そうでしょ?目を離した隙にシズちゃんが誰かを殺すかもしれない」
「…んなわけ」
「無い、と言い切れる?俺が愛してやまない『人類』を殺さないって」
びくり、また肩が揺れる。
そのままゆっくりとこちらに顔を向け、真っ赤な瞳と目が合う。
ああ、やっぱり泣いていたのかと思うと、それがどうしても愛しくて堪らなかった。
「シズちゃん泣いてたんだ」
「だ、誰のせいだと…!」
「んー、俺がシズちゃん以外を抱いたから?」
「………そうだよ、」
なぁ臨也、お前が好きすぎて苦しいよ。
ぽろぽろと綺麗な涙を零しながら、それでも目を逸らさずに言ったシズちゃんの頭を撫でてやる。
そのまま軽く口付けてやれば、強請るように舌を出すから、絡めるように音をたててシズちゃんの口内を味わった。
ん、と鼻にかかる声を漏らしながらも辿々しく動く舌に笑みを浮かべる。
口を離すと糸が互いの唇を繋ぐ、それは月明かりで輝いていた。
「好きだ、」
「そう」
「好き、畜生、好きだ、臨也…」
シズちゃんの胸を抑えながらの告白する姿が何だか可愛らしい。
気付けば、俺もだよ、そう呟きながらまたキスしていた。
二人しかいない空間に、くちゅくちゅと恥ずかしい音が響く。
苦しくなったのかシズちゃんは自分からキスを止めると、そのまま俺にもたれかかってた。
ずるずるとシズちゃんの体は滑り、最終的に膝枕のような状態になる。
痛んだ金髪を撫でてやれば猫のように目を細めた。
「…なぁ」
「うん?」
「俺だけじゃ駄目か」
「…うーん」
「なぁ、俺だけにしろよ、な…?」
今にも涙を零しそうな形相で見上げられると胸にクるものがある。
が、それとこれとは話が別だ、俺は人類全てを愛しているのだから。
それをシズちゃん一人に注いでは確実に狂ってしまうだろうから。
俺も、シズちゃんも、壊れてしまうから。
「ごめんね」
「…臨也」
シズちゃんの両手が伸ばされる。
その手は俺の頬をさすり、そのまま首に沿わせるように這い、そして締めるように力が込められた。
「俺が、臨也を殺せば、臨也は他を見ないよな?」
「そ、かも、しれない、ねえ」
「じゃあ殺す」
ゆるやかに、ゆるやかに首が圧迫されていく。
段々と気道が狭まるのを感じながらも、俺はシズちゃんの頭を撫でて笑ってやった。
「ばか、だ、ね、シズちゃ」
「…?なんでだよ」
「おれ、がし、死んだら、シズちゃ、に、あえな、い、じゃん」
俺の言葉を中々理解出来なかったのか、焦点の定まらない瞳はただ俺の方を向いたままだった。
けれど一つ二つ瞬きをすると、そっか、とゆるりと微笑みながら手を離す。
途端急激に入り込んで来る酸素に咳が出るが、そんなことはどうでもよかった。
「じゃあ止める」
「…いいこ」
「でも臨也、お前が俺を見なくなったら、俺がお前を殺すからな」
ちゅ、と唇が触れた。
(可愛らしい殺意だこと)
(100403)
written by 侑花