彼と彼女


春物を買いに街に出たら、偶然赤崎に遭遇した。行こうと思っていたショップの袋を提げているから、思わず覗き込んだ。

「何かいいのあった?」
「世良さんかぶんないでくださいよ。世良さんとおそろいとか嫌すぎるんで」
「はっ、こっちの台詞だっつーの」
「あ、」

立ち話をしていたら、不意に赤崎が片手を上げたので、その視線の先を振り返ってみると、かわいい女の子が笑顔で手を振って、こちらに向って歩いていた。何、おまえ、こんなかわいい子と知り合いなの、なんて驚くのも束の間で、人混みが開けて気付く、その子の半歩後ろに歩いている男の見知った顔。「は、椿!?」

「ち、ちわっス!」
「よう、名前」
「赤崎くん、久しぶりー!」

頭を下げる椿を見遣ってから、赤崎は彼女に向って話しかける。ちょ、赤崎おまえなに親しげに声かけてんだよ、ていうか、え、知り合い?なに、おまえ、俺のことも紹介してくれよ。視線で訴える。

「ああ、これ、世良さん。ETUのちっさいフォワードの人」
「ちっさいは余計だっつの!」
「あはは、はじめまして、苗字名前です。大介がいつもお世話になってます」

小さく首をかしげて自己紹介してくれる、名前ちゃんっていうんだ、かわいい。名前ちゃんに免じて赤崎の数々の無礼は水に流してやろう。
…つーか、え、何、大介、て椿の名前、てことは、何、彼女…?まさか、いや椿に彼女とか想像できねえ…じゃあ身内?、顔に出てしまったらしい疑問に、椿が答える。

「あ、えっと、俺の幼なじみ、ス」
「はあっ、こんなかわいい幼馴染がいるとか最高じゃんおまえ!」

思わず叫ぶと、名前ちゃんはちょっとはにかんで笑った。その横で椿はいつものごとく、きょどきょどしている。

「もう、大介なんで挙動不審なの」

そんな椿の背中をバシン、と叩いて、名前ちゃんが笑う。仲の良い姉と弟みたいだと思った。


「名前ちゃんかわいいよな〜彼氏いんのかな」

翌日、ロッカールームで赤崎に話しかけると、何故だか微妙な顔をされた。

「あいつはやめたほうがいっすよ」
「は、何で…はっ、まさか、おまえ名前ちゃんのこと、」
「それはないっす」
「即答かよ!何でだよー」

名前ちゃんかわいいし性格だってめちゃめちゃよさそうな子じゃねーか。話していると、微妙な顔をする赤崎の向こうで、着替え途中の椿が服を落としたと思ったら鞄までぶちまけた。

「何やってんだよ椿。つーかおまえ、近々名前ちゃんと会う予定とかねーの?俺も呼んでくれよ」
「あ、いや、えっと!今日、一緒にご飯食べるッス」
「まじ!?」

なあ俺も一緒行っていいだろ?、視線で訴える。隣で赤崎が呆れたみたいな溜め息をつくけど、関係ない。だって俺、今、マジで恋する五秒前ってやつだから。そこはガツガツいっとかないとダメだろ。

「あ…、ちょっとメールで聞いてみます…」


それで、練習終りに椿が飯に誘ってきた。

「あ、えっと、今日俺んち鍋で、人数多いほうが楽しいからって、名前が」

名前ちゃんと一緒にご飯!二人きりとかじゃないけど、俺と名前ちゃんと椿と、あと何でか赤崎。でもまあとりあえず、やっほい!、て感じで、俺は浮かれてて、気合入ってた。…まあ、そう、だったんだけど。

初めて行く椿の部屋は、男の一人暮らしにしては、妙に綺麗、ていうか、マメさを感じる、ていうか、俺、何かこういうの知ってるような、何か、うん、あれ?、ていうか、何、え?、ちょ、お揃いの茶碗って、ちょ、え?

「は、え!?、付き合ってんの!?」
「そーですよ。あれ、何、大介、言ってなかったの」
「まじか、まじかよ…」
「す、ッスミマセンっス…世良さん…」

いや、そりゃ言いづらいかもしれないけど、特におまえみたいなチキンにとっては。
つーか赤崎おまえ、絶対ちょっと、面白がってただろ。

「何でおまえが謝るんだよ椿」
「そうだよ謝るのは赤崎だろおまえ!チクショー!」

付き合っているどころか二人は一緒に住んでいるという。まじかよ同棲かよ。…まじか。ジーザス。ってこないだ映画で主人公が言ってたから使ってみる。よくわかんねーけど、きっと使い方はあっているのだろう。


「つーかあの二人、付き合ってるって感じしないよな」

ご飯も食べ終わって、ソファーの背もたれ越しに、台所に並んで立つ二人の後ろ姿を見遣る。未練たらしい、とかそんな厳しいことは言ってくれるな。ああ、ジーザス。マジで一緒に住んでるのね。でもでも、洗い物をする二人の、並ぶ姿は妙にしっくりくる空気を纏っているけど、やっぱり仲のいい姉弟、て感じだ。…別に負け惜しみとか僻みとか、そんなんじゃないけど。つーかさ、あーあ、あんなかわいい子が幼なじみでしかも同棲とかさ、漫画かよ。椿のくせに。

「世良さん、…あんまり見ないほうがいいっすよ」
「なん、」

赤崎の言葉に、何でだよ、て言おうとしたけど、言葉を忘れる。

「ほら、だから言わんこっちゃない」

並ぶ後ろ姿が、キスをする。その横顔は、まさしく恋人同士のそれだ。
…ゴチソウサマ。あーあ、俺も彼女欲しいな。





110313

10000hitリクエスト作品、『椿と幼なじみの女の子が同棲』。



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