冬と蜜柑


何とはなしにつけているテレビを眺めながら、コタツの中の膝をこすり合わせた。隣では勇作がみかんを剥いている。
窓の外では相変わらず、はらはらと雪が降っている。

今日は二人で出掛ける予定だったけど、待ち合わせ場所で降り始めた雪を見て、そのまま出掛ける気が一気に萎えてしまった。勇作に会って早々、「無理!死ぬ!」と叫んで、結局ふたりでコタツにおさまることになったのだ。
勇作の家では存分にぬくぬく出来る。我が家はちんまりしたワンルームなので、コタツを置くスペースなんてないから、寒い季節、勇作の家は本当に天国だ。一度入ったら出られない楽園。しかも図ったみたいにお隣さんからみかんがおすそ分けされた。みかん、コタツ、ああ、ぬくぬく。

「はい、剥けたよ」
「んー」

勇作のフリースパーカを借りて着て、両腕をその中に仕舞いこんでいる芋虫状態のわたしに、勇作が剥いたみかんを差し出してくれる。その手ずからみかんを食べる。
テレビでは、各地の雪の降っている映像が流れている。

「このへんも雪積もるかなあ」
「さあ、どうだろ」
「雪だるまは無理でも、雪うさぎくらい作りたいな」

他愛ない話をしている間も、勇作はみかんを剥き続ける。みかんをすっぽりと覆ってしまえる大きな手。それが、丁寧に皮を剥いていく。みかんを剥いている、白い筋を丁寧にとる無骨な、大きな手。
ああ、触りたいな、と思う。

勇作はみかんを剥いて、わたしの口に運んで、それから自分でも食べて、その繰り返し。
一度首をもたげた欲望はなかなか消えてくれない。触りたいな。ぼんやりと思っているうちに、だんだん、何だか腹が立ってくる。何故この男はひたすらにみかんを剥きつづけるのか。その剥いたみかんを食べつづけているわたしが苛立つのはおかしなことだけど。

「勇作、なんなの。なんでそんなにみかん皮むきマシーンみたいになってんの」
「名前が自分で剥かないからだろ。はい、」

あなたの指に触りたいんです、と思いながらも差し出されるみかんの甘さ、その誘惑に負けて甘受する。やっぱりこのみかん美味しい、最高。そう、最高で、幸せなんだけど。
……。みかんに嫉妬しているんだとしたら、間抜けとしか言いようがないけど。

「勇作さん」
「なんですか、名前さん」
「あなたの手に触りたいです」
「え、何…どうぞ」

ためらいなく差し出される手。ああやっぱり、いいなあ。大きな手。それが、当たり前みたいに目の前に差し出されて、それで何だか満たされてしまった。

「いや、いいの。みかん剥いて」
「何、どっち」
「触りたいな、て思って眺めてるのがいいの」

勇作の手がみかんを剥く。

「何。じゃあ言わないでよ」
「うへ。ごめん。だって勇作の手、なんかえろい」
「…そんなこと言われると剥きにくいんだけど」

呆れたみたいな声で言われる。剥きにくい、とか言いつつ、変わらない様子でみかんを剥いている、手。ああ、やっぱり、いいなあ。触りたい。

「てゆうか、俺としては名前のほうがえろいと思うんだけどな」
「え、どこが」

口を開けると、剥いたみかんを運んでくれる。ああ、やっぱり、甘くて美味しい。わたしは極楽〜な気分になるけど、勇作は何だか微妙な顔でわたしを見る。何。

「…そういうところが、」

言いながら、勇作の長い指はまたみかんをつまんで、わたしの口に運んでくれる。口を開けてそれを待つけれど、勇作が一瞬、焦らすみたいに目の前で止めるから、口を開けてるわたしは多分間抜けな顔をしてるんだろうな、と思ったんだけど。

「その顔がえろい」
「は、」

勇作は溜め息をついて、そのまま、つまんでいたみかんを自分で食べてしまった。
何それ、て思うけど。勇作も同じことを思っているんだろうか。何だかそれって、うれしいような。

「勇作のスケベ」
「名前だって」

くちびるを突き出して目を瞑ると、冷たい感触。目を開けると、ひと房のみかんを押し当てられていた。…これじゃないよ!、の抗議をこめて睨みつけると、今度は温い、唇が。降ってきた、押し当てるだけの、キス。

「うーん、みかんフレーバー」

間近で見つめ合って、わたしが言うと、勇作は小さく笑って、もう一回かわいいキスをしてくれた。それからまた、新しいみかんを手に取る。
勇作の手に触って、触られて、キスもいっぱいしたいけど、でも、まあそれは夜でいいかな、て思う、昼下がり。もう少し、このままで。

ベランダの手すりには、うっすらと雪が積もっている。
勇作はみかんを剥いて、わたしはその手ずからみかんを食べる。





110212

10000hitリクエスト作品。杉江!



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