君と繋ぐ


「初詣行かね?」

達海がそう電話して来たのは一月も半ばを過ぎた頃だった。日にちにしても初詣と言うには遅すぎるし、達海がチームメイトたちと既に初詣は済ませていることを名前は知っていた。名前にしても同じで、元旦に友人としっかり詣でて来たのだった。だから、今更?、て。

「今更初詣?」
「んー。おみくじ引くの忘れた」
「あ、わたしも」

それで、二つ返事で了承して電話を切った。達海の声を聞いたのは久しぶりだった。初詣でも何でもよかったのだ。


ETUの本拠地は、浅草。だから浅草寺に行くものとばかり思っていたのに、ターミナル駅で待ち合わせた後、向ったのは原宿だった。駅を降りると案の定、人で溢れている。そういえば二人で、こうした人の多い場所を歩くのは初めてだった。

「すげー人」
「休日だから尚更ね」
「酔いそうだよなー」

たくさんの行き交う人たちに、ぶつからないように歩くのも名前には難しいくらいだった。その半歩前を、たらたらと歩いているようで誰にもぶつかることなく達海が歩いている。いつもと同じ、隅田川の河川敷を歩くのと同じように、二人並んで歩くけど。いつもと違う。人が多くて、だからいつもより、二人の距離が近い。それでいて、人波に揉まれる不意のはずみの中で、一人分も二人分も離れてしまう。
だから、はなれないように、名前の右手は、達海の肘のあたり、コートをそっと、掴む。


参道に入ると急に人通りがぱたりとやんで、喧騒が遠くなる。

「達海くん人混み苦手じゃん。何でこんなとこにしたの」
「んー…」

名前はそっと達海のコートから手を外すけど。つかずはなれずの微妙な距離になる、いつも河川敷を歩くのと同じ距離。本当は名残惜しいと思っている。思っているだけで、右手をぷらぷらさせて、左斜めちょっと後ろから、いつもと同じように、名前は達海のおとがいを眺めている。だから歯切れ悪く返事をする達海の左手が、所在なさげにさまよっていることに気が付かない。



「あ、わたし五百円玉しかない」
「すげー願い事叶いそうじゃん」
「えー」

賽銭箱を前にしてもたつく名前に、にやにやと達海が笑う。

「ケチると叶えてくれねーかもよ」
「そんな現金な神様に頼みごととかしたくないよ」
「しょーがねーなー」

達海は口を尖らせながら、チャリチャリと財布から小銭をつまみ出す。

「あ、わたし、五円玉がいいな」
「は?何で?」
「ご縁がありますように、て言うじゃん」
「なに、ダジャレ?」

そう言いながら名前の手のひらに落とされたのは、十円玉。

「あれ、五円玉ないの?」
「ん。おまえはそれでいいの」
「なにそれ」

まあいいやと思い、賽銭箱に放り投げる。

「作法とかあるんだっけ」
「適当でいいんじゃね?」
「えー。そろえようよ。二礼二拍手一礼?でいいのかな」

達海は緩慢な動作で名前の動きを倣う。それを横目で見ながら、名前は手を合わせて目をつむる。
達海くんが今年も楽しくサッカーできますように。それで、サッカーする達海くんをいっぱい見られますように。達海くんが怪我とか病気をしませんように。たまにこうやって一緒に出かけたりできますように。
…達海くんのことばっかりじゃないか。慌てて名前は頭から達海を追い出して、願い事を考えるけど。
肩が触れ合いそうなほど近く、隣にいる達海の気配がする。願い事、そう、今日、会った時からずっと考えていたこと。達海くんと手をつなげますように。

ふと横を向くと、ニシシ、と達海は笑っていた。心の中で願ったことで、伝わったはずがないのに名前は何故だかどきりとする。

「なに?」
「おまえ、欲張りすぎ」

ドキッ、というか、ギクリ、というか。でも、願い事なんて思うだけタダだし、思っているだけなら別にこのにやけ顔の男に通じるわけでもないので、平然とした顔で本殿を後にする。達海が笑いながら名前の後を追う。

「うるさいなあ。達海くんは何お願いしたの」
「俺?…言わね」
「何、気になる」
「自分で叶えるし」
「何それ。詣でに来た意味な、」

意味無いじゃん、て、名前は笑って達海を振り返る、でも言い終わらないうちに言葉をなくした。だって、手が、つながっている。

「おまえは何あんなに長く欲張ってたんだよ」
「…もう叶った」
「は、」

見開かれた目が名前を見て、それからすねたみたいに眇められる。
あらぬ方向に視線をそらす達海の横顔が赤くなっているのに気付いて名前は、つながれた手の温度に、色をつけるならこんな色なのかな、とぼんやりと思う。

「……、おまえってほんと俺のことたぶらかすよなー」

達海がいつもの調子で口を尖らせるので。

「は!?、たぶらかされてるのはこっちの方だよ!」

体当たりするみたいに勢いよく身体を寄せたら、つながれた手がいっそう強く結ばれる。





110210

10000hitリクエスト作品。
『現役達海さんとほのぼのした恋』



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