独酌の後 酩酊名前の曖昧な記憶には、その一連は、険しい顔をした星野似の人と喋ったなあ、でも星野が夢に出てきただけかも、記憶飛んでるけどでもまあ無事家に帰れたっぽくてよかった、くらいにしか残らなかった。 仕事の関係で再会したとき、星野はうげっ、て顔に出て、それで名前はあれあれもしかして、と青ざめた。 「あの、お会いしたことあります…よね」 「ええ、まあ」 青ざめて、あわあわなんて音が聞こえてきそうなくらいに名前が慌てている様がちょっと面白かったから、ひきつる愛想笑いの後で星野は多分、素で笑ったかも知れなかった。 「そんなこともあったねえ。星野くんにさあ、星野よりイケメン、とかさあ。超ウケるよね」 「ウケるよねじゃねえよ。失礼なやつ」 「うへへ」 「んーだよ。ほら、そのへんにしとけ」 「えー、まだ飲む」 あのときと同じ店、広くて長いカウンターテーブル、星野の隣で名前が陽気に笑っている。一緒に酒を酌み交わす仲になって、久しい。 へらへら喋る名前の奥、同じカウンターテーブルの端に座る、若い男数人が、ちらちらこっちを見ているのに気付いて星野は溜め息を零す。 「あのときさあ、タクシー乗っけてくれたのって、星野くんだよねえ」 「…ああ」 あのときも、一人でふにゃふにゃになってる名前は“そういう目”で見られてて、だから不本意だと思いながらも、星野はもうこれ放っといてもいいんじゃね、とも思いつつ結局、店を出て声を掛けられてる名前を、「ツレに何か用ですか」みたいな、全然ツレじゃないし寧ろ関わりたくないとさえ思ってるのにそんな顔しながら捕獲して、「だあーいじょーぶ、へいきです」と言ってゆらゆら歩く名前を、タクシーを捕まえて押し込んで、「あの、女性が一人だけで飲みすぎたりとか…飲み方考えた方がいいと思いますよ」とかなんとか、そんな小言まで言った。それで、そのタクシーを見送って、星野は心底自分のサガにげんなりしたのだった。 そんな苦労性を、知りもしない名前が隣で笑っている。 「ていうかさ、星野くんさあ、あんとき、ねえ、絶対、下心あったでしょ?」 そんでもって、螺子の抜けたにやにや笑いで、あほなことを言い放つので。 「ちげーよ!」 一言モノ申さんと口を開いたら止まらない。 「あほかおまえ、下心アリのやつらが向こう側に座ってておまえは一人で泥酔してるし無事に帰さなきゃと思ったんだよ!実際俺が追いつくまでに声掛けられてるしついていきそうになってるしよ、つーかいまだにおまえそういうとこ変わってないしよ、もーまじでおまえ女としての自覚持てよつーか社会人としての自覚を持て」 まさかこんなマシンガンで応戦されるなんて思ってもみなかった名前はしばし口をあけてるけど。 「まじすか」 「んーだよ」 「しょーげきのじじつ」 「あ?」 「お父さんかよ!」 んーだよ、この小憎たらしい笑顔。うれしそうにいう言葉がそれかよ。 その手にあるグラスを奪って中身を飲み干したら悲鳴が聞こえてざまあみろと思った。 101220 酒を零す、だけではあんまりな感じになったので、星野は面倒見いいよね、という話を加えてみた。関わりたくないけど放っておけないっていう。 |