04


何となく月日は流れていくもので、気が付けば三年生になっていた。
名前とは普通に“一年のとき同じクラスでまあまあ仲良かったやつ”並に疎遠になった。それで、「誰々が苗字さんに告白したらしい」とか「付き合ってるらしい」とか噂が聞こえてきたけど、まあ、だからといってどうということもなかった。

それで、何となく流れていく月日の中で、気が付けば彼女とは自然消滅…みたいな。俺はますますサッカーにのめりこんでいたし、彼女は受験を控えていた。夏ぐらいからだんだん疎遠になって、別れを切り出されたのが、すっかり街がクリスマスめいている十二月半ば。ありえねえ。どうせならもっと早くに言ってくれよ。俺は今年もクリスマスは、一緒に過ごすものと思ってたのに。


結局、クリスマスイブ、練習の後すぐに家に帰るのも癪だったので(だってお袋とかに妙に哀れむような目で見られたくない)、街をぶらついて帰ることにした。彼女と一緒に行こうと思って、それらしい所を色々調べたりなんかしていた自分が本当にバカでむなしくて、別に彼女のためとか最初っから関係なく俺がこれを見たかったんだ、と俺の脳みそは勝手にそう思い込むことに決めたらしい。
というのはまあ、後になって思ったことだけど。
まあなんつーかだって、クリスマスは万人に平等だろ、一人でイルミネーションを眺めたっていいじゃないか、綺麗なものを見て心洗われたっていいじゃないか。そうやって頭が勝手に理由をつけて、足は人ごみに止まることなく歩いていく。

で、まあ。そういう選択はもうどっからどう見ても失敗だった訳だが。当たり前だ。俺はどうかしていた。まわりはカップルだらけだった。でも、逃げるように帰る、なんていやだった。まじもう、お一人様とか関係ねーし。俺はこのイルミネーションの芸術的な美しさを見たかっただけだし。カップルだらけの状況にひよった、みたいになるのはごめんだった。もうだいぶ、すでに色々むなしいが、俺は意地になっていた。巨大な光るツリーを見上げて無心になる、なろうとする、つーかなる。

ふと横を見ると、ちょっと離れたところに名前がいて、何故かちょうど、目が合った。俺は何故だかぎくり、とした。名前は一瞬目を丸くして、それからへらっとあほみたいに笑った。つーかなんでこいつこんなとこにいんの。すげー偶然の、ナイスタイミングの、バッドタイミング。

「赤崎くん!」

わ、偶然!やほ!、と白い息を吐きながら名前が駆け寄ってくる。何でこいつはこんなに呑気にこんなところにいられるんだろう。こいつは本当にあほなんじゃなかろうか。

「練習帰り?おつかれ!」
「…おー。苗字は?」
「予備校の帰りだよ」

「あれ、彼女さんは一緒じゃないの?」とか普通に聞いてくるから、ほんとに、こいつはまぎれもないあほで、こいつと目が合ったのは最高に最低なバッドタイミングなわけで。
……。一人でこんなところにいるんだから、察してくれ。と思っている間にも、名前はにこにこと俺を見上げてくる。

「あ゛ーもう!」
「な、なに?」

びびりながら、名前はようやく察したようだった。目に見えて慌てているから、ちょっと可笑しくなる。とりあえずむかついたから名前の頭を叩いておいた。

「いたいよ!」
「あ゛ー、いや、いい。もういい。俺はサッカーに生きる」
「う、うん、がんばれ!」

名前なんかに励まされたのにむかついたので、もう一回頭をべしっとやってやった。
「もう!なに!」と涙目で怒る名前を無視して光るツリーを見上げる。つられたように名前も見上げて、きれいだねえ、と言った。



それから名前の受験勉強の話とか志望校の話とか俺のサッカーの話とかしながら帰った。電車に乗って、家が近所だから、同じ道を歩く。多分、同じことを思い出している。

「昔、赤崎くんに、サンタなんかいない!て言われた。わたし、ほんとに信じてたのに」
「そんでおまえ、泣きながら走って出て行って、この道で転んでさらに大泣きした」
「うん」
「すげー血が出てて、結構トラウマなんだけど」
「痛かったのはわたしなんですけど」
「俺のせいじゃねーし」
「そうだけどさ」


他愛もない話をして、分れ道に差し掛かる。手を振る名前が、「あ、メリークリスマス!」とうれしそうに言った。街頭も疎らにしかない暗い住宅街の真ん中で、それはあほみたいに明るく響いた。つられて俺も、「メリークリスマス」、言っていた。

昔は、逆だった。名前にこの言葉を教えたのは俺で、舌が回らなかった名前に繰り返し言って、俺に続いて舌足らずながらようやくちゃんと「めりーくりすます」って言えたとき、言葉の意味なんてわかってないのにばかみたいに二人で何度も一緒に口に出してはしゃいだ。

もう背を向けて、確かめようがないけど、多分名前も、同じことを思い出してると思った。





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どうせだからクリスマス近くに更新、と思ってきましたが世間はすっかりクリスマスムードなので。
メリークリスマスという言葉は響きが何だか楽し気。



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