03


二年になって、名前は隣のクラスになった。
そんなに頻繁ではないけど、忘れ物をすると俺のところに借りに来るようになった。


「苗字さんかわいいよな〜」

陸上競技の測定で、並んで待っている間、隣から声がした。体育の授業は2クラス合同でやるから、体育は名前のクラスと一緒だった。まあ男女別々だけど。あほな男友達どもに両側から肩を組まれて、同じ方向を見ると、女子はサッカーをしていた。
名前の運動神経は中の下くらいで、それは高校に入ってからも変わっていないようだったが、サッカーは他の女子よりずっと上手かった。ガキの頃、俺と一緒にサッカーをやりたがって、下手なりに一生懸命ボールを追いかけていたのを思い出した。

「苗字さん、彼氏とかいんのかな」

なあ赤崎おまえ仲いいだろ、知らない?、とか言われて、「知らねーよ」と応えながら、ないない、とこころの中で笑った。つーかこいつ声がマジだよ。もっと他にかわいい女子いるだろうよ、と思った。何であえての名前なんだよ。謎すぎる。



夏服に衣替えするころ、一年のとき委員会で一緒だった女子に告白された。俺もちょっとかわいいと思っていたから、まずは友達から、つって結局、付き合うことになった。

「赤崎くん、日本史の教科書貸して!」

彼女と話しているところに、名前がやって来た。俺は持ってなかったのだが、彼女が持っていた。「私持ってるよ。貸してあげる。ちょっと待ってて」そう言って彼女が自分の教室に取りに行っている間、名前は「わ〜!超いい人!」とか言って、いたく感動していた。「いいねえ、お似合いだねえ」と言われて満更でもない気分だった。それから名前は「恋してるねえ、青春だねえ!」と嬉しそうに言った。

「わたしも青春したい!恋したい!」
「は、無理無理。出来たとしても片思いだな」
「ひどっ!」

その日の放課後、彼女と一緒に帰った。授業の後に教科書を返しに来た名前と少し話をしたらしく「苗字さんって、かわいい人だね」と言われた。何故だか俺は満更でもない気分だったが「バカで抜けてるだけだろ、」と思ったことを素直に言って応えた。



夏休みは、サッカーの練習のほかには、友達と遊ぶとかだけじゃなくて、彼女と一緒に宿題をやったり、出掛けたりするという、それなりに青春めいたものになった。

八月の終わりに彼女と祭りに行った。たこ焼きを二人でつついたりとか、違う味のかき氷を分け合ったりとか、そういうことしながらぶらぶら祭りを楽しんでいたら、見慣れないはずなのに見慣れたような背中が目に入って、俺はどうしてかそれが名前だとわかった。名前はちょっと小走りで(ここが人混みじゃなくて草履じゃなかったら多分全力疾走してたのではなかろうか)、きょろきょろしながら人混みを進んでいく。
バカ、そうやって闇雲に走るから、追いかけるほうは大変なんだ、と、一歩踏み出そうとしたところで、追いかけて名前の腕を掴んで引くやつがいた。腕を引かれた名前の横顔は、ほっとしたみたいに笑っていた。

「あ、苗字さんだ。あれって遼のクラスの男子だよね」

手をつないで歩いていく二人に気付いた彼女が言った。

「付き合ってるのかな」

おいおいまじかよ。面白すぎる。
と思ったが、俺は何故だか全然笑えなかった。



だからといって何がどうなるというわけでもないのだが。まあ単なる好奇心と、目撃したものとしてのある意味社交辞令的なつもりで、祭で名前と歩いていたクラスメイトに「おまえ苗字と付き合ってんの?」とか聞いてみたりして。

「いや、まだ。付き合う方向に持って行こうとがんばってる最中なわけよ。こないだの祭に一緒に行って、脈アリだとは思うけど…」
「けど?」
「…何か、同性の友達と同じような感じで、普通にただの友達と思われている気がしないでもない」

まあ応援してくれよ!、とか何とか言っているときに、名前が「教科書貸して!」とやって来た。

「あ、俺それ持ってる!貸すよ」
「え、いいの?」
「いいのいいの。で、今度俺が何か忘れたら貸りに行ってもいい?」
「勿論!ありがとう!」

なんだこれ。面白すぎる。と思ったが、やっぱり俺は何故だか全然笑えなかった。
それから名前は俺じゃなくてそいつに教科書を借りるようになった。





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五輪招集時の満更でもない感じの顔の赤崎が好きです。続きます。



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