静雄くんと二人、夜道を歩く。静雄くんは何故か不機嫌なままだ。私は静雄くんに嫌われたんじゃないかということと、二人きりということに緊張してずっとドキドキしていた。何も話さないまま、でも歩調は合わせたまま、星一つない真っ黒な空の下を歩いた。
「あ、静雄くん。私の家そこ……。」
「あー……。」
気が付いたら家のすぐ前まで来ていた。…じゃあまたな、と静雄くんが踵を返し私に背中を向けて歩いて行く。何か言わなきゃ。好きだと言わなきゃ。震える声を振り絞って、待ってと叫んだ。数歩先にいる静雄くんの腕を掴む。
「ああああのっ!今日は来てくれて本当にありがとう!!静雄くん来てくれて本当に良かった!」
「あ?あー…と、俺も楽しかったわ。」
「これからも、静雄くんのこと遊びに誘っていい!?」
「……ノミ蟲はいいのかよ。」
「え?臨也くん?」
どうしてそこで臨也くんが出てくるんだろう?確かに臨也くんと静雄くんは仲良しとは言えないけど、今日は喧嘩しなかったしそんなに気にすることでもないんじゃないかな。それに私は臨也くん抜きで静雄くんと二人で遊びに行ったりしたい。…静雄くんが嫌じゃなければ。
「……臨也のこと、好きなんだろ?」
「え?えええええ?」
「………。」
「ちっ違うよ!臨也くんのことは好きだけど!臨也くんはただの幼馴染で友達だよ!」
「さっき好きだってノミ蟲の野郎が言ってたじゃねぇか。」
「ええ!?……あ。ちっ違う違う!あれは違う!それに私が好きなのは……!」
ぎゅうとスカートを握り締める。心臓はもう、爆発しそうだった。
「私は、静雄くんが好き!ずっと前から好きです!」
「え…?」
どうしようもないくらい好き。
泣きたくなるくらい好き。
恥ずかしくなるくらい好き。
周りが見えなくなるくらい好き。
クリスマスを好きな人と過ごすのが夢だった。暖かい部屋で美味しいケーキを食べて、ゲームをして。二人きりじゃなくてもいいの。ただ、同じ空間で同じ時間を過ごすのに憧れていた。
あれから静雄くんは何も言わない。私も怖くて、何も言えないし静雄くんの顔も見れない。この場から逃げてしまいたいけど足が震えて上手く動かなかった。マフラーに顔を埋めるように俯く。すると、目の前の小さな紙袋が差し出された。
「…やる。」
「え、私に?」
返事の代わりに袋を手に押し付けられた。開けろ。と呟かれたのを聞いて、小さな紙袋を開く。…可愛い。中には綺麗なビーズと花がついたヘアピンが入っていた。中途半端に伸びた前髪を横に流して耳のあたりで留める。さっきまで前髪で隠れて見えなかった静雄くんの顔が見える。
「すごい可愛い!ありがと!私ずっと前髪切ろうか伸ばそうかで悩んでたんだ!」
「そうか。…絶対、名前に似合うと思った。」
腕を引っ張られて、私は静雄くんに抱きしめられた。耳元で、俺も名前が好きだと囁かれて、瞬間に見上げると静雄くんの笑顔がすぐ傍にあった。ち、近…!!思わず離れようと引いてしまった体は静雄くんにまた引き寄せられる。かわいい、なんて好きな人に言われて照れない女の子なんていないと思う。
「…あ!どうしよう!私プレゼント用意してない!」
「あ?んなの別に気にしてねぇよ。」
「だめだめ!私も何かプレゼントしたい!!」
「……じゃあ、臨也にもう好きとか言われたり、言ったりすんな。」
「へ…?」
俺以外の男に好きとか言うなと髪の毛をぐしゃぐしゃにしてくる静雄くんの顔は真っ赤だった。まさか臨也くんに嫉妬しているなんて思わなくて、可笑しくて思わず声を出して笑ってしまった。笑うなと不機嫌そうな声で言われても全く怖くない。じゃあ、明日プレゼントを選びにどこか2人で出掛けませんか?笑い声を抑えながら静雄くんを見上げると、少し不貞腐れた顔が近付いてきた。
Merry Christmas!!
I wish you a merry and happy christmas.