陽介さんは私がまだ中学生だった頃、お店に見習いパティシェとして働いていた。優しくてケーキを作るのがすごく上手で、当時は色んな事を教えてもらったっけ。私にとって兄の様な人で、憧れの人だった。



陽介さんのお店を出て静雄くんと二人で少し暗くなった池袋の道を歩く。少ししか話せなかったけど、久しぶりに陽介さんに会えてすごく嬉しかった。ケーキもすごく美味しかったし幸せな気持ちで一杯だ。静雄くんは途中からもうお腹いっぱいだといって食べるのをやめてしまって、あまり元気がない。甘いものを食べすぎて気持ち悪くなることもあるから、できるだけゆっくり歩く。お店を出てから会話は一言もない。



「……名前さん。」


「うん?」


「陽介さんってどんな人なんすか?」


「陽介さん?」



下を向いたまま静雄くんがポツリと呟いた。静雄くんの金髪は暗くてもキラキラ光ってよく目立つ。



「陽介さんはね、ケーキを作るのが上手で、優しくて、私のお兄さんみたいな人かな。」


「………好きなんですか?」


「え?」


「陽介さんのこと……好きなんですか?」


「ええっ!?」



陽介さんを好きか、なんて考えたこともなかった。いや、もちろん好きだけど…。私にとっては王子様みたいな人で、私なんかはまだまだ勉強中の学生だから。ただ陽介さんみたいなケーキを作りたい、陽介さんみたいになりたいと背中を追ってきたのだ。いつか陽介さんと肩を並べられるようになったら、私の気持ちもはっきりするのかもしれない。



「ごめん!今までそんな風に考えたことないからよくわかんないや。」


「………俺は。」


「………静雄くん?」


「俺は、名前さんが好きです。」



薄暗い街でもりんごみたいに静雄くんの顔は赤いのがわかって、私はいつか一緒に食べたアップルパイの味を冷静に思い出していた。




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