前にも思ったことだけど、この人と一緒にいると女子にでもなったかのような気分になる。
本当に甘ったるい。




「わ!このチーズケーキすっごい濃厚!」


「………。」


「ミルクレープも柔らかくて美味しいー幸せー!」


「………うまい。」



名前さんに誘われてやってきた場所は池袋にあるケーキ屋だった。ケーキバイキングという点もあると思うけど客はそこそこいっぱいで、なかなか人気のある店らしい。名前さんは友達と行くつもりだったらしいが、友達に急に予定が入ったから俺を誘ってくれたらしい。甘いものが好きでも男一人ではこんな場所は入り辛いものだ。誘われてすぐに俺は返事をしていた。



「あ、静雄くん。クリームついてるよ。」


「ん?」



置いてあったナプキンで自分の口元を拭くと、名前さんにくすくすと笑われた。完全に子ども扱いされてる…。心の中で溜息をついた。名前さんが気付いているのかいないのかはわからないが、店の中はうざいくらいカップル客ばっかだった。店に入った時はぎょっとしたけど、名前さんはそんなこと気にもしないでケーキに夢中。なんか俺ばっかり意識しているのが悔しい。今日の名前さんはバイトの時の姿とは違って髪も下ろしてるし、私服も…か、かわいいし、余計に意識してしまう。もうこの前から俺ほんと馬鹿みてーだな…と今度は本当に溜息が出た。でもバイト以外の時間に二人で会うって俺じゃなくても普通は意識してしまうもんじゃないのか?違うのか?



「食べすぎちゃった?平気?」


「…こんなに美味いのに、気持ち悪くなったりしませんよ。」


「うん、本当に美味しかった!また腕が上がったなー。」


「?よく来る店なんですか?」


「よく来るというか実はこの店は…。」


「名前ちゃん!来てたんだ?」



男にしては高めの声に俺は顔を上げる。白のコック服にエプロンをつけてにこにこと笑っている男がテーブルの横に立っていた。誰だこいつは。従業員らしいこの男が何で名前さんを名前で呼んで…?



「陽介さん!」


「久しぶりだね。元気そうで良かった。」


「陽介さんも相変わらずですね。」


「あはは。そっちの子はお友達かな?」


「あ、こちらは今うちでバイトしてる静雄くんです!静雄くん、この人は陽介さん。うちのお店で昔見習いパティシェとして働いてたの。」



「こんにちは」、と明るい笑顔を向けられて戸惑った。なんて言えばいいのかよく分からなくて「どうも」とだけ返事をした。その後、いつもより嬉しそうな名前さんの声が聞こえて二人は何かを話し始めたけど、俺の耳には何も入ってこなかった。ただただテーブルの上の食べかけのケーキを見ていることしかできなかった。



チョコレートミルクレープ



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