静雄、その気持ちのことを恋って言うんだよ。
「ふざけんなよ……!!!」
恋。俺が名前さんに。……いや、ねぇだろ。ないない、ない!!確かに名前さんはいい人で、話してると落ちつくし、料理も美味い。だけどそれはバイトの先輩として、のはずだ。それなのに、何でかあの人のことを考えるとイライラする。それもノミ蟲のときに感じる怒りの類ではなく、別のなにか。強いて言うなら風邪のときの症状に似ている気がする。風邪自体はあまり掛かったことがないけど、熱でぼーっとしてくらくらする感じに。風邪かと思ったら熱はないし、まったく訳がわからない。新羅に薬を出せと言っても「お医者様でも草津の湯でも、恋の病は治せないよ」と可笑しそうに笑われただけだった。今度会ったら絶対殺す。
「静雄くん?なんか顔怖いよ?」
「えっ……。」
名前さんの声で今はバイトの休憩時間だったことに気付く。顔を覗きこまれるように見上げられて心臓が大きく跳ねた。顔、近い。
「もしかして体調悪い?なんか顔赤いし…。」
「だ、いじょうぶ…です。」
本当は全然大丈夫なんかじゃなかった。新羅の発言が頭の中でこだまして、名前さんの顔がまともに見られない。心臓はバクバク。顔にだけ熱があるみたいに熱い。普段より距離が近くてもうなんか、駄目だ。結構目大きいんだなとか、髪の毛すげー綺麗だなとか、なんかもう駄目だ俺。まじで何考えてんだよ馬鹿か!
静雄、その気持ちのことを恋って言うんだよ。
そんなの簡単に信じられるか。俺を受け入れてくれる人間なんてこの世界にいるわけないのに、それがわかっているのに、人間を好きになるわけない。俺には人を好きになる資格がない。だけど、名前さんは機嫌の悪い俺を怖がらないで話しかけてくれた。一緒にお菓子を作ろうと、誘ってくれた。だから、……だから?
「だから何だってんだよ、ああ!??」
「え?」
「……ひとりごとっす。すいません。」
新羅の言葉を鵜呑みにするわけではないが、名前さんに何か今までにない感情を持っていることは確かなようだ。この人のことは、嫌いじゃない。しばらくは様子見ということにしておこう。色々考え込むのは苦手だし、これ以上悩んでると頭がおかしくなりそうだからそういうことにしとく。まだバイト半分以上あんのにすげー疲れた。
「あ、静雄くん。今週の金曜ってバイト入って無かったよね?」
「はい。」
「もし空いてるならちょっと付き合ってくれない?」
付き合っての言葉にまた心臓がはねた。
オレンジシャルロット
1009/10