開口一番、家を訪ねてきた客人に僕は言った。
「これ美味しいね。」
「そ、そうか?」
「うん。これ静雄のバイト先の?」
「…あー、いや……バイト先の人と一緒に俺が作った。」
隣に座っていたセルティがPDAを落とした。私は飲んでいた紅茶が変な気管に入って、大げさすぎるほどむせてしまった。
『こっこの可愛らしいクッキーを静雄が!?作ったのか!?』
「まぁな。」
「げほっげほっ。」
『まさか静雄にこんな特技があったとは……すごいな。見なおしたぞ!』
「そんな誉めるなよセルティ。」
「げほっげほっ。」
『新羅から静雄がバイトを始めたとは聞いていたが…上手く言っているみたいだな。バイト先の人との仲はいいのか?』
「………そのバイトのことでちょっと。」
「げほっげほっ」
『なんだ?なにか悩みでもあるのか?』
「……」
「げほっげほっ」
「……いい加減にしろよ?新羅。」
静雄は視線だけで人一人殺せそうだ、と僕は思う。咳が止まらないのは誰のせいだと思っているんだ。無理矢理苦しいのを喉の奥の方に押し込めて再び紅茶を飲む。
「ごめんごめん。それで話って?」
「…最近バイト先の人と一緒にいると、イライラする。」
「あれ、上手くいってるんじゃないのかい?」
「店の人は俺にはもったいねぇくらい、いい人ばっかだ。けど…。」
「うーん?もう少し具体的に、単純明快に話してくれる?イライラするのは特定の人物かい?」
友達の俺としては、静雄がバイト先で上手く言ってるのはとても喜ばしいことである。今まで色々なところでバイトをしていたのは知っているが、どこも三日として続くことはなかった。それが驚くことに今のバイトは2カ月ほど続いている。彼の言うようにきっと今のお店の方々は心が空のように広く、海のように深い人たちなのだろう。なんとか悩みを解決させて今のバイトが続けられれば、きっとセルティも喜んでくれるはずだ。
それにしても静雄をイライラさせる人物とは一体どんな人なんだろう。一瞬静雄とは犬猿の仲の折原くんが脳裏をかすめたけれど、それはないなとすぐに消えていった。そんな奴いたらとっくに店はなくなっている。
「特定の人…か…。」
「誰か思い当たるの?」
「……あああああああイライラする!!!!!」
「え、まさか臨也?」
「なんでそこでノミ蟲がでてくるんだ?あぁ?」
「違うの?いや、よくわかんないけどごめんなさい!!」
「…ノミ蟲や俺に喧嘩売って来る連中とは違う。」
「……。」
「あの人のこと考えると頭ん中がぐるぐるして、そんな自分がうぜぇ…。」
「…もしかして、その人女性?」
「何でわかった…?」
静雄、その気持ちのことを恋って言うんだよ。
そして僕は投げ飛ばされた。
アフタヌーンティーとクッキー
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