ケーキ屋でバイトを始めた。これまでしてきたバイトはすぐに首になってやめてしまったが、ここでは上手くやっていける気がしている。店の人はいい人だし、なによりもケーキが食えるのがいい。買うとき割引がきいたり店長が新作の味見をさせてくれたり、つーかこんないいバイトあっていいのか。この店破産したりしないのか?


「静雄くん。お疲れ様。もうあがっていいよ。」


「…うす。お疲れ様でした。」


そんなことを考えていた時に店長がひょっこりと顔を出すもんだから少し驚いた。気をつけて帰ってね〜と店長に続き顔を出した店長の奥さん(里海さん)に挨拶をし、店の裏手にまわった。本当に仲のいい、好い人達だ。バイト服から制服に着替えるとうんと背伸びをして裏口に向かう。高校の帰りに直で来たから、教科書の入った鞄がやけに重く感じる。力仕事はないが、やっぱり体は疲れているらしい。



「あ、静雄くん。今帰り?」


「…名前さん。」



名前さんは店長夫婦の娘で、よく店の手伝いをしに来ている。年は俺より3つ上で両親のようなパティシェになるために専門学校に通っているらしい。落ち着いているけどよく笑う人で、俺にもよく話しかけてくる。最初は怖がられていた気もしたけが今では普通に接してくれるし、丁寧に仕事のことを教えてくれる、好い人だ。


「今日は店の手伝い来なかったんすね。」


「そうなの。明日までの課題が終わらなくって…。」


専門学生はなかなか忙しいもんらしい。それでも「高校生よりかは暇だけどね。」と言って名前さんは苦笑していた。高校生はそんな忙しくない。毎日教科書持って授業を受ければ寝てても全然平気だ。「でもその鞄教科書入ってるんでしょ?すごい重そう。」試しに持たせてみたらやっぱり重かったみたいで体が鞄を持つ方に傾いていた。中身を確かめると、鞄の中には紙辞書が3冊入っていた。臨也アノヤロウ。


「…すんません。名前さん。俺帰ります。」


「うん、気をつけて……あ、ちょっと待ってて!」


臨也の野郎殺す殺す殺す……。こんなウゼェことすんなあいつしかいねぇよな。ぶつぶつ独り言を言っていると名前さんが小走りで戻ってきた。


「これ今日の昼間に作ったプリンなんだけど良かったら食べて。店のより味は劣るんだけど…。」


渡された紙袋の中にはプリンが2つ。それじゃあ気をつけて帰ってね、お疲れ様。と名前さんは店の方に入っていた。プリンは激しい動きをするとぐちゃぐちゃになってしまうだろう。そしてプリンは俺の大好物。


「まっすぐ帰ろう。」



プリン



(20100629)
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