カタカタとキーボードに打ち込む作業を始めて約2時間。テスト週間に入ってから毎晩のようにこの作業を繰り返しているのに、終わらなければならないレポートはまだまだ残っている。実習の後にこつこつと1つずつ終わらせておけばこんなことにはならなかったのだけど…と後悔してももう時は遅い。
 あれから静雄くんはどうしてるんだろう。静雄くんにはこの前陽介さんのお店に一緒に行ってもらってから1度も会っていない。その後すぐにテスト週間に入ってしまったから、それっきり。私の格好悪いところとか嫌なところとかをいっぱい見せて、迷惑や心配をいっぱいかけてしまったことを謝りたいと思っているのに、電話をかける勇気はなかなか出てこない。静雄くんに、嫌われてしまったことを確認するのが怖い。嫌われたと思ってるのは私の被害妄想だけど、絶対に嫌われた自信がある。私が静雄くんだったら絶対嫌いになってるもん、うん。
 静雄くんのことが好きかもしれない、と思ったのはつい昨日のことだった。勉強しててもレポートを書いててもお菓子を食べてても、静雄くんのことを考えていることに気付いていしまった。あれだけ迷惑掛けておいて、今さら好きとかないよね。一体この気持ちはどうすればいいんだろう、と悩んでいるといつの間にか勉強する手やキーボードを打つ手は止まっていて、作業は停滞するばかり。色々な意味で泣けてくる。
 ピリリリ……と携帯の着信音が鳴って、また自分が考え込んでしまっていたことに気付いた。夜遅くに誰だろう、とディスプレイに表示された名前を見て、携帯を落としそうになる。し、静雄くんだ…!見間違いじゃないかと目を擦ってみる。やっぱり静雄くんだった…!慌てて通話ボタンを押して携帯を耳にあてた。



「も、もしもしっ!」


『あ…名前さんですか?』


「えーと…名前です。」


『今大丈夫っすか?』


「大丈夫です!」


『…ぷっ、なんで今日敬語なんすか?』


「え?あ、何でもない!気にしないで!」


『…名前さん、俺何かしたっすか?』


「え?何のこと?」


『最近またバイト休んでるから…俺またなんかしちまったのかと…。』


「!違うよ!今私テスト期間中なの。勉強しなくちゃいけなかったから…。」


『…あー、そっすか。良かった…。』


「電話しなくちゃって思ってたのに…ごめんね。」


『いや、いーっすよ。今久しぶり声聞けたし、思ってたより元気そうだし。』


「私も静雄くんの声聞きたかったから、良かった。」


『あー…と、そういうこと言われると…』


「え?」


『……めちゃくちゃ会いてぇんだけど。』


「な!今ななんて…!?」


『…何でもないっす。それじゃ…。』


「あ、あの!金曜日でテスト終わるの!静雄くん暇?」


『え…。』


「私も!会いたいから!」



 電話の向こうにいる静雄くんは一体どんな顔をしているんだろう。今どんな気持ちで私と電話しているんだろう。あれだけ電話するのが怖かったのに普通に話せていることが嬉しい。会いたいと思っているのが私だけじゃなかったのが嬉しい。これが、もしかして。



ティラミス
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