テスト期間が終わって足が重いのを無理矢理引きずりながらバイトに来た。だけどそこに名前さんの姿はなくて、安心3分の1、寂しさ3分の2。久しぶりに会えると思うと嬉しかったけど、どんな顔をして会えばいいのかもよくわからなかった。そもそも気付いたら口から出てしまったような告白だったから、会ってもう一度自分の気持ちを再認識したかった。あの時は、気付いたら、好きだと言っていた。俺自身もびっくりだ。本当に。名前さんが店の人以外の男と話しているのを見たのはあの時が初めてだった。陽介さんと楽しそうに話している名前さんを見ていると、苦しくて、目をつぶりたくなったのはよく覚えている。あの時だけは名前さんの声を聞きたくないと思った。楽しそうな顔を見たくないと思った。…よくわかんねーけど。それからすぐに、運がいいのか悪いのかテスト期間のために2週間ほどバイトの休みをもらっていたから名前さんに会ったのはあの時が最後。テスト期間なのにおれの頭の中は2週間後のバイトのことばっかで勉強なんてまったく頭に入ってこなかった。すぐに会いにいけばいいとも思うかもしれないが、そんな度胸も勇気もなかった。その代わり2週間の間気持ちを紛らわすために喧嘩ばかりしていた気がする。ノミ蟲は相変わらずうざかったし、喧嘩を売られればすぐに買っていた。ようするに俺は2週間ずっとイライラしていた。
名前さんの欠席理由は店長にもわからないらしい。もしかして、いやもしかしなくても、俺のせい、だろうか。俺が告白したから。俺に会いたくない、のだろうか。あの時のさ名前んの顔を思い出す。眉を八の字にして困ったように笑った顔。あんな風な顔にさせてしまったのは、間違いなく俺だ。自己嫌悪で、ミシリ。握っていた携帯が音をたてた。
もう、会わない方がいいのかもしれない。あの時のことは忘れてほしいと謝れば、前の様な関係に戻れるような気もする。だけど、それは嫌だ。俺はあの人が、名前さんが好きだ。俺を怖がらずに話してくれるところが好きだ。お菓子を作ってる時の真剣な顔が好きだ。あの甘い甘い匂いが好きだ。年上なのにどこか幼さが残った笑顔が好きだ。そしてなにより、甘いものを食べているときの幸せそうな顔が好きだ。
迷うのは、躊躇するのは、もうやめた。
そして俺は電話帳からあの人の名前を選んで通話ボタンを押す。



『・・・静雄くん?』




何度目かのコールが終わると聞こえた声に、今すぐ会いたくなった。




べイクドチーズケーキ
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