(7巻のあとの話)


折原臨也が消えた。彼の名前が全国ニュースで流れた日、病院を抜け出したらしい。それから彼の姿を見た者はなく、まったく行方がわからないでいる。
そして、池袋の街は少しだけ静かになった。
首なしライダーは以前よりも少しだけ運び屋の仕事の量が減っていた。
岸谷新羅は恋人の仕事の量が減り、一緒にいられる時間が増えたことを喜んだ。
平和島静雄はキレて自動販売機を投げる量が激減した。
ただ一人だけ、苗字名前は折原臨也の帰りを待っていた。


♀♂


「臨也は何らかの理由で、どこかに身を隠しているんだと俺は思うけどね。あいつがそんな簡単に死ぬはずがないし。」


「……でも。」


「あの静雄との喧嘩でも死んだことなんてないんだからさ。まあ名前が心配する気持ちもわからなくはないけど、そんな世界の終わりみたいな顔するほどのことじゃないよ。」


「………………。」


「…ごめん、俺が悪かった。君の純粋に心配する気持ちはよくわかるんだ、ただ少しでも君を元気づけようとだからあんな無神経なことをあだだだだセルティ痛い痛い殴らないで僕が悪かったからあああ!!!!」



新羅を自身の影で殴りながら、その片方でセルティが『大丈夫?』と書かれたPDAを名前に見えるようにする。背中を撫でてくれる影はとても優しい。名前は差し出されたティッシュをありがたく受け取って目尻を拭った。


「新羅もセルティもありがとう。私が心配しすぎなのもわかってるの。あの人がそんな簡単に死ぬような人じゃないってことも。でも…」


こんなに長い間帰って来ないの初めてだから。そう続けた言葉は涙と嗚咽が混じっていたが、二人の耳にはしっかりと届いていた。



♀♂



セルティにお泊まりを誘われたが丁寧に断り、名前はサンシャイン通りのネオンの中、自宅であるアパートに向かって歩いていた。これ以上二人に迷惑はかけられないし、仲のいい二人を見てるのも少しだけ辛かった。

名前は臨也がいなくなっただけで自分がこれ程にも駄目になるとは思ってもみなかった。臨也の情報屋という危ない仕事のことも理解しているつもりだったし、たくさんの恨みをかっているのもわかっていた。だけれど、臨也はいつも上手く切り抜けていて、私がいくら心配しても大丈夫と言って笑っていたから。心配症な私もいつの間にか臨也なら大丈夫、と心の隅っこでは思っていたのかもしれない。ああ本当駄目な奴だなぁ、私。

こんなことになるなら、もっと早く臨也の入院していた病院に駆け付ければ良かった。

ニュースを見てすぐに新幹線に乗ったが、病院に着いた時には既に臨也はいなくなったあとだった。

こんなことになるなら、臨也の好物の紅茶のシフォンケーキ、もっと作ってあげれば良かった。

こんなことになるなら、もっと臨也とデートすれば良かった。

こんなことになるなら、もっと臨也に好きって言えば良かった。

こんなことになるなら、………

思えば後悔ばかりで、止まっていた涙も再び溢れてきた。ごしごしと服の袖で目元を擦ってようやく着いたアパートの部屋の鍵をまわす。電気も付けずそのままベッドにダイブした。臨也、臨也、臨也。どこ行っちゃったの馬鹿。零れる涙は生暖かいのに、濡れたシーツは酷く冷たかった。





どれだけ時間が経ったのだろうか。いつの間にか眠ってしまったのか、ただぼーっとしていただけなのかもわからない。ケータイの着信音で脳が覚醒したらしい。表示された番号は知らないものだった。無意識に通話ボタンを押していた。



「…もしもし?」


『やあ、久しぶりだね。名前。』


「…………」


『心配症な君のことだから、俺が死んだなんて思ってたんじゃない?大丈夫。このとおり生きてるよ。』


「…………」


『刺された所も大したことなかったしね。そういえば君、病院にお見舞いに来てくれたんだって?ねぇ、名前。聞いてる?』


「…………」



『……実は今、君の部屋の前にいるんだよね。ねぇこれ以上一人で泣かせたくないんだけど……開けてくれる?』


臨也が部屋の前にいると言った時点で、名前は扉に向かっていた。今だけは邪魔で仕方ない鍵を開ければ、ケータイを耳に当てた、会いたかった人。名前、と聞こえた声と抱きしめられたこの感触は夢なんかじゃないようで、ますます涙が溢れた。涙でぐちゃぐちゃな顔にキスを落とされて、馬鹿みたいな愛を感じた。



「ごめんね、会いたかった。」







(後悔していたのは、彼も同じ。)

title たとえば僕が
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