小学生の頃、私は身体が弱くて入院ばかりする子どもだった。そのせいで学校は休んでばかりで友達をほとんど作ることもなく、入院している間は毎日毎日折り紙ばかり折っていた。鶴やお花、風船に手裏剣。特に折り紙を折ることが好きだったわけじゃないけど、それしかやることがなかったのだ。



「…すげぇな、それ。全部お前が折ったの?」



黄色の折り紙でキリンを折っている時だった。隣のベッドの、腕と足に包帯をぐるぐる巻きにした男の子に話しかけられたのは。確か昨日入院してきたんだっけ。



「それ全部折り紙でお前が作ったのか?」


「だって…退屈だから。」


「すげぇな。こんな難しそうなの俺絶対できねー。」


「結構簡単だよ。…教えてあげるから一緒にする?」


「やりてぇけど、この怪我が治らないとなー。」



包帯で巻いた腕を少し上にあげて此方に見せるようにして、彼は苦笑いをした。
他にどんなの作れんの?ペンギンとか、猫とか、色々。じゃあ折って見せてくれよ。
それから私は彼のリクエストに答えて色々なものを折った。今まで難しそうだと思って避けていたものも彼が作ってくれと言えば本を見ながら必死に作った。動物なんだから顔を描いてあげろよと言われれば、今まで作った動物の形をした折り紙に色鉛筆で顔を描いてあげた。彼は私が作ったものは必ず誉めてくれた。いつの間にか、私は折り紙が好きになった。



「ねぇ、まだ腕治らないの?」


「んー。前よりは動くなったけどまだ包帯取れないっぽい。」


「そっかぁ。あ、腕が治ったらさ、1番最初に何折りたい?」


「そうだなー。やっぱり………かな。」


「へぇー。じゃあ早く治して一緒に作ろうね!」



そして彼は、私の知らない間に退院してしまった。ひとりぼっちの私のベッドの上には彼のリクエストに応えて折った折り紙が山のように残り、楽しそうに笑っていた。鶴やお花、風船に手裏剣、そしてたくさんの動物。全部作り方、教えてあげられるのに。握りしめたせいで、綺麗に折れていたひまわりの花がぐしゃぐしゃになった。包帯取れたお祝いにあげようと思ってたのになぁ。折り紙が涙で濡れてふやふやになっていった。




 ――……‥‥




「…へぇ。そんなことがあったのか。」


「昔の話っすけどね。でもたまに思い出すんすよ。」



めずらしく仕事が早く終わり、トムさんに誘われた居酒屋で自分の遠い昔の話をしていた。どうしてこんな話になったかというと、トムさんの鞄から携帯を取り出した拍子に綺麗に折られたひまわりの形の折り紙が落ちてきたからだ。
絶対一緒に折ろうね、と約束していたのにそれを守れずそのまま会うこともないまま気付けば俺は大人になってしまった。きっとあの隣のベッドの女の子も、同じように。
かなり短くなっていた煙草に気付き、それを吸いがらに押しつけた。



「つーか、何でトムさんの鞄の中に折り紙が入ってるんすか。」


「これか?これは高校の時のダチの嫁さんがくれたんだよ。そういえばその嫁さんも、これくれたとき静雄みたいなこと言ってたな。」


「俺みたいなこと?」


「初恋の男の子との思い出、って。」


「っそんなんじゃないっすよ!」


むきになって否定する俺を見て可笑しそうにトムさんは笑う。からかわれたのが悔しくて、それを誤魔化すように残っていた酎ハイを飲みほした。
隣のベッドのあの子は今でもあのひまわりのような笑顔で笑っているだろうか。そうならいい、きっとそうだと思う。
トムさんの持っていたひまわりに顔を描いてやろうと思った。あの子があの時、俺のために折り紙に描いてくれたように。


あなたをしまって
     おかせてください


(綺麗に、丁寧に、優しく折りたたんで)



お題:as far as I know
20111115
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