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「ねぇ、どうしてこんな問題も解けないの?こんなんでよく大学に入れたねぇ。幼稚園からやり直した方がいいんじゃないの?」
「……あー、すいませんねぇ。」
定期テスト1週間前のテスト週間。バイトが重なってほとんど出席できなかった授業のテスト勉強をするために1年の時から同じゼミの折原くんに勉強を教えてもらうことにしたのだけれど、かれこれ2時間ほどこのような感じだ。ちょっと間違えたりわからないところを聞いただけでさっきみたいなことを繰り返し言われて腹が立たない人間がいるだろうか。少なくとも私が知ってる人間の中にはいない。これに歓びを覚えるのはこいつの信者くらいだ。
「そこ、間違ってるよ。ブルームとブルーナーは名前は似てるけど唱えてることは全く違うからね。」
「…あー本当だ。」
「いい加減覚えなよ。バカでもそれくらいは覚えられるはずだろ。」
「…ねぇ、そんなに私をバカにして楽しい?」
頬杖をついた折原くんは青空が似合う爽やかな笑顔で「ものすごく楽しいよ」とにっこりと笑った。顔がいいだけに余計にイライラする男である。
「君がこれからずっと卒業まで俺の出席を代筆してくれるっていうなら、とっても優しく教えてあげてもいいけど。」
「遠慮しときますー。折原くんなんて留年しちゃえ。」
「残念ながら君とは頭の出来が違うから単位の心配はないんだよねぇ。」
私よりも出席数は少ないのにちゃっかり単位をとってる折原くんは裏で手でも引いているのか、影でめちゃくちゃ努力しているのか。おそらく前者の可能性が高いと思うけど、なんとなく心の中にその思いはとどめておく。後々めんどくさくなるのは嫌だ。
「…でも君さ、こんなにバカにされてるのに毎回定期テストの度に俺に勉強聞きにくるよね。…なんで?」
「だって私、これくらいきつい事言われないときっとサボっちゃうもん。」
「…うわー気持ち悪いんですけどー。究極のマゾヒストだよそれ。」
「違いますー。ていうか究極のサディストに言われたくないし。」
あからさまに引いたような顔で見てきた折原くんに消しカスを投げると、持っていたノートでぺちんと頭を叩かれた。まるで小学生みたいなやりとりをする私達を見ている人は周りには一人もおらず、シンと静まりかえっている。他の人の前ではクールでかっこいい折原くんのこんな姿を是非見てもらいたいというのに。
「君がこのテストで優とれたら、前に行きたいって言ってた甘味屋さん連れてってあげるよ。」
「え!本当に!?もちろん折原くんの奢りだよね!?」
「優がとれたらね。優が。大事なことだから2回言うけど覚えられたかな。」
「覚えた覚えた!よーし約束だからね!」
再びシャープペンシルを握って問題を解きだす私を見て、おかしそうに折原くんが笑った。汗をかいたグラスの中で氷がカランと音をたてた。
夏休みはもう、私たちの目の前。