「ね、ねぇ、静雄。」


「あ?んだよ。」


「うー…えーと…。」


「どした?ハッキリ言えよ。」


「き。」


「き?」


「キ、スしません、か。」



付き合い始めて1カ月。静雄の手の中でポッキーが粉々に砕けた。
静雄は私にとって初めての彼氏で、静雄にとっても私は初めての彼女だった。つまり二人ともそういうことには初心者で、未だに手すら繋いだことがない。高校からの付き合いで長年の思いがようやく叶ったと言うのに、まるで気分は中学生だ。こんなこと臨也や新羅にばれたら確実にネタにされそうだけど、私と静雄はその名の通り健全なお付き合いというものをしている。
静雄が全く私に何も求めてこない。それは私に魅力がないからか、私のことを嫌いなのか。不安でどうしようもなくなって、とうとうキスを求めてみたけど、静雄の反応を見るのが怖くて顔をあげられない。やっぱり女子からこんなこと言うなんて引かれちゃったかな。



「…。」


「…。」


「…する、か。」


「…い、嫌だったらいいんだけど。」


「いっ嫌なわけねぇだろーが!」


「えっ……あ、静雄顔真っ赤…。」



大きな声に反応して静雄の顔を見上げると、茹でダコのように真っ赤だった。見るんじゃねぇよ、と頭を俯かせるように髪の毛をくしゃくしゃにされた。



「…嫌じゃない?」


「当たり前だろ。…付き合ってんだからよぉ。」


「だって今までそんな素振りなかったし…。」


「…悪い。不安にさせちまったな。」



静雄はタイミングを見失っていたらしい。友達期間が長かっただけあって一緒にいることだけには慣れすぎていたからきっかけが掴めなかったみたいだ。似たもの同士だね、とお互い顔を見合わせた。
頭を撫でていた手が離れて、静雄のおおきな両手に顔が包まれる。今までになかった至近距離に静雄の真っ赤な顔があって、心臓が鼓動を速めた。



「…やばい、緊張する。」


「俺も同じに決まってるだろ。」


「静雄早く目閉じてよ!」


「俺からするんだからお前が先に閉じるんだろーが!」


「っそうなの?」


「…多分。」



じゃあ、はい。目を閉じると静雄が見えなくなって尚更緊張が高まった。私変な顔してないかな。包まれた手から脈拍が伝わってきて、静雄も緊張してることがわかる。顔に掛かる横髪を優しく耳に掛けられた。



「…上手くできないかもしんねーけど。」


「…大丈夫。」


「…。」


「…。」


「…好きだ。」



目を閉じた暗闇の中で、静かに唇が重ねられた。ああ、今静雄とキスしてるんだ。真っ赤な静雄の顔が脳裏に思い浮かんで、心臓がぎゅうぎゅう苦しくなる。


好き。
好き。
好き。


どうか重ねられた唇から言葉以外のこの気持ちが伝わりますように。



title by 泣き虫ベティの宝石箱
20110613
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