「臨也くん誕生日おめでとう!」
彼女の祝福の一言で何十回目かの折原臨也の誕生日は始まった。
前日の仕事が長丁場だったおかげで寝不足だったものの、彼女の声はやけに臨也の眠気を覚まさせる。
ベッドの横で楽しそうに笑う彼女は、まるで自分の誕生日であるかのように嬉しそうで、臨也も眠い目を擦りながらつられたように笑った。
「ありがとう。これでおはようのキスがついたら最高かな。」
「キスしても臨也くんは起きないでしょ。」
「さぁ?やってみる価値はあると思うけど。」
「…じゃ目、つぶって。」
言われた通りに臨也は目を閉じた。彼女の恥ずかしそうな顔が目に浮かんでくる。
左の瞼に柔らかい感触がくっついて離れた。
「唇にはしてくれないのかな?」
「しーまーせーんー。」
「じゃあ俺からするよ?」
「もう!そういうのはご飯食べてから!ちゃんとケーキも作ったんだからね!」
ばたばたとスリッパを鳴らして部屋から出ていく彼女の横顔は予想通り真っ赤でとても可愛らしかった。思った通りの反応を示してくれて、本当に面白い。
臨也は、いつもの人間に対する裏のある笑みではなく、素直に、とても自然に、彼が愛する人間たちがみせるような笑みを浮かべた。彼女は知らなかったが、臨也がそんな風に笑える相手はこの世に彼女一人だけだった。
「…ねぇ、嬉しいんだけどさぁ。俺は大食いチャンピオンじゃないんだよ?」
「あははー、ちょっと作りすぎちゃった。」
臨也がリビングに入ると、テーブルいっぱいに御馳走が飾られていた。よく見るとそれは臨也の好物ばかりで、どうやら自分の好きなものをすべて作ってくれたらしいことに気付く。
彼女が「食べきれなかったら岸谷くんたちにおすそ分けするね」と言ったのを止めた臨也は、少しだけ自分の胃袋を心配しながらも、彼女の料理を他の奴に食べられるよりマシか、と小さく息を吐いた。
「そろそろ食べよっか!ケーキにろうそく付けるね!」
「えーもしかして俺が消すの?」
「もちろん!」
溢れそうなくらい苺がのったケーキにろうそくが6本。
順に火をつけていく彼女の手が危なっかしくて途中からは臨也が火をつけた。最後に彼女のお気に入りのバニラの香りのキャンドルに火を点して、部屋の明かりを落とす。
ろうそくの明かりだけで照らされたオレンジ色の部屋はやけに神秘的に感じられ、ここがいつもの自宅兼事務所であると臨也は到底思えなかった。この部屋はこんなにも穏やかになれるのか、と。ただ隣にいる彼女だけは普段とは変わらなかったのだけど。
「これってさ、火を消すときに願い事をするんだよね。」
「そうそう。願い事決めた?」
「…君の願い事は?」
「私?」
「特別に君の願い事が叶うように願ってあげるよ。」
「えー、臨也くんのお願いでいいよ。」
「俺はいいから。ほら早くしないとロウがケーキに落ちちゃうよ。」
「ええ!?ええっと……」
臨也くんが野菜を食べられるようになりますように!
臨也は少し苦笑いして、ふぅっとろうそくを消した。
「もっとマシな願い事はなかったのかい?」
「だって考える時間なかったし!」
「普通こんな時はさぁ、臨也くんとずっと一緒にいられますようにー!とか臨也くんがずっと愛してくれますようにー!とかじゃない?」
「それは…そういうのは、自分で頑張る。」
はにかむように笑う彼女があまりにも可愛くて愛おしくて、思わず臨也はその小さな額に唇を落とした。まったく、こんなの反則だ。
額、瞼、こめかみ、耳たぶ、頬、鼻、唇のすぐ横、と順にキスを落としていく。くすぐったそうに顔を横にずらした彼女に、臨也は一旦動きを止めた。
「どうかした?」
「あの、生まれてきてくれてありがとう。臨也くん。大好き。」
彼女と臨也の唇が重ねられた。
生まれて初めて言われた言葉と彼女からの口づけに、臨也は強いアルコールを飲んだ時のような目眩を感じた。
離れた彼女の顔を両手で優しく包みこむ。
愛してる。少し掠れた声。
どちらともなく再び唇を重ねて、キャンドルで照らされた二つの影は一つになった。
知らなかった。
実はこんなにも温かいんだね
2011.05.04 HAPPY BIRTHDAY izaya!!
「私の情報屋さん」様へ。
素材は1OOg様からお借りしました。